私は夜には教会でお世話になるというのが日課だ。
だが、そんな教会でも、知らないことはある、し、危険もある。
そんでもって、今日向かったのは、とあるホテルの最上階だった。
「じー……。」
「…あ、あの何か?」
私の目の前にいるのは、一言で言えば、イケメンの青年。
私が凝視しているのは、イケメンだから、という理由だけではない。
――もちろん用件は別にあって。
「えーっと…確か…、前に…、会いましたよ…ね?」
「えぇ、二日前。夜の冬木市郊外でしたね。」
唐突な質問に、青年は丁寧に返してくれた。
「ああっ!そうだった、そうだった。夜だったわ。ふーっ、スッキリした。」
「ハァ…それを確かめるだけに、わざわざ私のところに来たと言うのかね?
―――柊 玲奈。」
「うん、勿論だよ。」
なんの疑いもなく、さらっと質問を返した。
そして困ったようなのに明るく、続けて後ろの髪をわしゃわしゃと掻いた。
「だってさ、私の記憶って殺されるたびに抜けたりするんだもの。
特に殺された日なんて、記憶が穴だらけなのなんのって。
…って、なんで私の名前知ってるの?」
はた、と玲奈が気付いてはくるりと振り返った。
私は顔しか知らない、名前は音での記憶のみのために残ってるのが弱い。
(多分記憶が抜ける前ならそこのイケメン…ランサーなら名乗ってたと思う。マスターの彼は定かじゃないけど。)
なので、視界という記憶は逆に覚えやすく、忘れにくい。
故に、顔だけぼやけて覚えているのはそのためだ。
「知ってるも何も…二日前、君がランサーに堂々と名乗っていたではないか。あのときは私もいたのだが?」
「…あれ?そうだったっけ?」
顔は覚えてるから面識はあったけど、名前を名乗ってたのは忘れてた。
…そう簡単に殺されて、なんて軽々しく口に出来るのは私くらいだろう。
といっても、前までは普通の人と変わらず生活をしていたのだから、殺されることに抵抗はない…わけでない。
(実際に起き上がるのが困難なほどに痛いんだから!)
まぁ、取りあえず自分が何故ここにいるのかという目的は達成できたためにくっと身体を伸ばした。
「ハァ…、こんな小娘が魔術師だと…?」
「小娘って…私これでも成人はしているのですけど…。」
振り向いてはまたため息ですか、と言わんばかりに何度目かのため息をつく。
でも穴だらけの記憶だけども、所々が覚えているからこの人は私を殺したことがない。
殺されてたら、最悪顔すら覚えてないなんてケースもある。
(まぁ、あの神父…言峰綺礼は顔は覚えてたのが幸いだった。)
名前はぼやけているけど、姿とか、あと、気配の記憶とか。
「最初はアナタも警戒してたよね。今は平気なの?」
「それは、君が令呪を持っていたからだろう?だがそんな令呪の状態ではとても参加者とは思えまい。
それとも何か?君は私に警戒心をもってほしいのかね?」
「いやいやそんな。」
こんな危険値ゼロな私を警戒なんて面白くないですよ。
というか、やめてくれ。
私に使い魔が居れば事情が変わっただろうが、生憎令呪も薄いままであったこともない。召喚もしていない。
私は、一般人のそれと何ら変わりはないのだから。
強いて言えば、私の起源・逆説から派生したスキル“シュレーディンガーの猫”が珍しいのだろうが、戦闘スキル等々は皆無だ、皆無。
だから、必要以上な警戒をしても無駄ということだ。
戦闘になれば、私が秒殺されるのは目に見えているのだから。
「でも…ランサーのマスターはいい人ですね。」
「はっ?何を唐突に言い出すのかと思いきや…。」
「だって、話聞いてくれましたから。」
にこりと微笑んでそう告げたら、また来てもいいもなぜか言われました。
個人的にはこの二人は気軽に話すことができると思いましたから。
(それにこの無愛想な人って、先生だよ!先生!)
まぁ、先生だってことは。調べたらわかったのだけど。
これで、イケメンなサーヴァントこと、ランサー。
そしてマスターこと、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトとの邂逅は為せたのだった。
再会 -case:ランサー陣営-
(それにしても…このイケメン…ランサー、だっけ?)
(はい、私がどうかしましたか?)
(いや、あの時は助かったよ。アナタが止めに入ってなければどんなことになってたか…)
(私は…丸腰の女性を手に掛けるようなことはしませんから。)
(紳士だよ!紳士!)