文学少年の敗北

多分、文学少年であるボクの根源を知りたいらしい。
あくまでボクの勘。

だけど、段々と慣れ慣れしく感じるのは何故だろうか。



「蓮。せやから言うてるやろ。女子はスカートやって。」
「関係ないです。ボクはコッチが合うから履いているんです。あと、名前で呼ばないで、」
「あと女子が『ボク』やない。」
「……。」



多分、最初のような会話はもう無いと思った瞬間である。

会って早々、制服のズボンはスカートにすべきだとか、
一人称が『ボク』ではなく『私』だとか。

まさかの指摘に、段々イラついてくる。
正直、放っといてくれとまで思うほどに。


こんなやり取りが暫く続く。
今まで先輩だから多少遠慮していたが、もう色々と限界だった。



「っ、そもそも…何でボクに構うんですか。
アナタは3年生。ボクは2年生。
部活が一緒でわけでもないし、言ってしまえばあの時あの場所で会ってなければ赤の他人です。」



ハッキリとした声で、蓮は告げた。

そりゃそうだ。
あの時にあの場所に居たのは唯の偶然で、唯の偶然に偶然が重なってああなった。

“ただ、会った”だけでは。不十分なくらいに。



「それなのに、何で構うんですか。」



もう一度問う。
偶然会っただけの文学少年に、どうしてここまで執拗して会おうとしたのか。

ハッキリとした音でそう告げると、今吉は軽く息をつく。
そして、空気がほんの少し変わる。



「構うのに、会うのに理由がいるんか?」
「…えぇ。あった方が幾らか納得する材料があります。」



少し、返事をするのに時間がかかった。
―――なんでだ?

その理由はいたって簡単だった。
“この男・今吉翔一は、誰よりも油断してはならない相手だから”だ。


証拠に、唐突に手首を掴まれ、反射的に視線がぶつかる。
三白眼でこちらを見られ、動けない。



「っ!ちょ、何して……!」
「ワシはな、蓮。他人やない。」



眼を閉じたのに、どうしてかボクは囚われたまま。
この隙が、つくづく男の自由にさせてしまう。



「……は?」
「“あの時にあの場所で会ってなければ赤の他人”?
それはちゃうで。」



唐突に何を言い出したのだ。この男は。
懸命に思考を張り巡らせる暇を与えもせずに、男は言葉を続けた。

それも、核心的なことを。



「…は…、え?」
「あの時あの場所以前に、ワシと蓮は会うてる。」



再び眼が、開く。
ぞわり、と空気が一変し、完全に反論の意欲を奈落の底に突き落とす。

堕ちてしまったら、ボクは男の言葉を真正面から受けるしかない。



「名前を聞いて確信したわ。此処で会うもっと前…、
蓮が入学した時にワシは蓮を“知って”いる。」
「な、…何を…、言って……。」



もう、ダメだ。
この状況になってしまえば、ボクは白旗をあげるしかない。

正直言えば、“怖い”のだ。
―――他の誰でもなく。この“私”が。


何もいえなくなったところを見計らってか、今吉はボクの手を離して、
また人の良さそうな笑みを浮かべた。



「ま、気になったらいつでも聞きにきい。
蓮が女らしくなったら教えたる。」
ければ赤の他人”?
それはちゃうで。」



唐突に何を言い出したのだ。この男は。
懸命に思考を張り巡らせる暇を与えもせずに、男は言葉を続けた。

それも、核心的なことを。



「…は…、え?」
「あの時あの場所以前に、ワシと蓮は会うてる。」



再び眼が、開く。
ぞわり、と空気が一変し、完全に反論の意欲を奈落の底に突き落とす。

堕ちてしまったら、ボクは男の言葉を真正面から受けるしかない。



「名前を聞いて確信したわ。此処で会うもっと前…、
蓮が入学した時にワシは蓮を“知って”いる。」
「な、…何を…、言って……。」



もう、ダメだ。
この状況になってしまえば、ボクは白旗をあげるしかない。

正直言えば、“怖い”のだ。
―――他の誰でもなく。この“私”が。


何もいえなくなったところを見計らってか、今吉はボクの手を離して、
また人の良さそうな笑みを浮かべた。



「ま、気になったらいつでも聞きにきい。
蓮が女らしくなったら教えたる。」


また、あの手をヒラヒラさせながら背中で語る。
正直、ここで縁を切りたかったが、変な爆弾を足元に置いていって消えてしまう。

悪夢から醒めるのは、まだ先のようだと確信した。





文学少年の敗北
(『恐怖には、恐怖に対する恐怖というものしかほかにはない。』)
(だとしたら、この怖さを誰が救えようか。)
(白は後悔する。ゴールの見えない黒の底に飛び込んだことを。)