文学少年の布告
入学の時に会ったことがある?
そんなの、嘘に決まってる。
だって、そんな、わけ。あるはずがないもの。
「なんや、今日は本。読んでへんのか。」
「…っ、…。」
最早おなじみと言っても過言じゃない。
ボクのお気に入りの場所で特等席の隣に、男がひとり。
けろっとした顔で顔を覗き込まれる。
『イヤなんだけど』と即答しても、この男・今吉翔一には通じないだろう。
人の良さそうな顔をして、実は腹の中は真っ黒なのだから。
「いつもいつも難しそうな本を澄ました顔で読んでる姿。ワシ好きなのになぁ。」
だから、イヤなのだ。
本心はそんなこと微塵も思ってないクセに。
本心ではただの玩具としか見てないクセに。
負の感情ばかり、押し寄せてくるのが自分でも解った。
何かを、する前に。
「…なんで…。」
「ん?」
頼むから、消えてくれ。ボクの前から。
そうすれば、こんな感情も芽生えることなんかないのだから。
「なんでアナタはいつも、いつもボクの前に…!」
「せやから、『ボク』やなくて『私』やろ?」
「今はその話をしてません。ボクの前に何故現れるのですか?
ボクはアナタのことを知らないのに…!」
何も知らないのに、逆に知っている。
それがイヤで不快。
知識ならいい。人のことならいい。
だが、その矛先が自分自身なら話は別である。
「…なんや、それのことかい。」
はぁ、と今吉はため息をつく。
(いや、ため息吐きたいのはこっちの方!)
「前にも話したと思うんやけどなぁ…。」
「――――“興味があって”では理由になりません。
ボクには、れっきとした“理由”が欲しいのです。」
興味じゃない、本当なところはそこじゃない。
読めない男だけど、興味なだけじゃ此処までしない。
興味なだけでは入学当時から知ってて今には至らない。
だって、初めて会話したのがほんの数日前なのだから。
「しゃあないなぁ。」
「……?」
そう言ってはずん、と急に距離を縮めてきた。
(いや、近いから離れてよ。)
ボクと今吉先輩の距離が二十センチほどで、真正面から告げた。
「…ワシが蓮のこと。好きやと言ってもか?」
「………はぁっ?!」
ボクが突っ込む前に、今吉は言葉を続ける。
それも、決めるようなキリッとした表情で。
「因みに“興味”の意味での好きやない。蓮自身を見ての。“女”としての好きや。」
「だ、だから…い、意味わかんない、って。」
興味の意味での好きじゃない?女としての好き?
訳がわからない。理由がそれ?
ぐるぐる上手く廻らない思考をなんとか廻らせていると、今吉はため息を吐いた。
(だから、吐きたいのはボクだって!)
「…蓮、あんた素人か?」
「うっさい!」
「ほんなら、こうでええか?」
そういって、男にはない細い腕を掴まれて引っ張られ。
流されるがままに身体を引かれると、待っていたのは。
不意打ち過ぎで、唐突過ぎる口付けだった。
文学少年の布告
(『心情は理性の知らないところの、それ自身の道理を持っている。』)
(蓮。ワシは本気や。容赦はせんで?アンタを堕とす。)
(!!(本気の目だ…やる気だ…!))