文学少年の異常
単刀直入に言えば、今の自分は異常だった。
とういうより、常に正常でいる方が、逆に異常だとは思うのだけど。
それでも、今のボク・霧島 蓮は異常だった。
異常だと思ったこと。それは、
ボクが読書に集中できなくなっていた事だ。
自分で言うのもアレだが、ボクは異常者だ。
本を読むことを中毒とし、それをボクは正常だと思っていた
なのに、集中できない。
いつも隣でちらつく“何か”に妨害されて集中が途切れる。
これが、ボクの異常。そして、異常の原因。
「蓮ちゃん。会いたかったで?」
この男だ。この男が、ボクの正常を乱した。
傍から見れば異常だと捉える正常を、それはもうごちゃごちゃにしてくれたのは彼だ。
「…何の用ですか。」
「ツレないこと言わんといてな。折角会いに来たんやし、仲良くしような?」
「お断りします。
“あんなこと”言っておいて、仲良くなんて出来ません。」
―――蓮。ワシは本気や。容赦はせんで?アンタを堕とす。
“あんなこと”とは、こんなこと。
未だにあの時に垣間見た危険極まりない目と言葉が、頭に過ぎる。
その前に、キスをされたことも。
映像として、鮮やかに残ってる。
「なぁ、たまには笑ってくれや。蓮ちゃん?」
「…今吉先輩がボクと必要以上に関わるのを止めて頂けるなら。」
何故、ボクに必要以上に関わろうとしたのか。
その理由は、ボクが好きだから。
意味が判らない。
「せやから言うたやろ?ワシは蓮のことが好きやって。」
「ボクは嘘は嫌いです。
それに、アナタの言っていることを素直に受け入れることは出来ません。」
どうしてこんなにも胡散臭いアナタの言葉を信じろというのですか。
好きだの愛してるだの、今のボクには不要。
ボクは文学少年だ。文学を愛するボクに、人との馴れ合いは要らない。
「せやったら、どうしたら信じて貰えるん?」
「!信じるも何も…嘘をつくようなアナタを信じれないんです。」
アナタが距離をつめれば、反射的に離れる。
そんなことは、今までのやられた経験値から得た結果。
―――この男は、すべてに於いて油断してはならない。
「そや、自分は嘘が見抜けるんやったな。なら、ワシの嘘も見抜けるん?」
「ボクは、嘘発見器じゃ…。
……でも、ボクは貴方のすべてを知っているわけではないんです。
仮に嘘を見抜けたとしても、本質までは知りませんから。」
唐突な言葉にため息をつく。
別に嘘発見器じゃない。
ボクはただ、すべてのものに疑問をかけているだけ。
本に書かれた活字はあくまでフィクション。
人の言葉など、あくまで戯言。
ノンフィクションなのは自分自身がこの場に存在するという事だけ。
存在以上に真実はないと、ボクがそう思う。
なのに、この男・今吉翔一は
ボクの理論など微塵にも思わずに、唐突に言葉や行動で転がして堕とす。
油断していたわけじゃないのに。
急に腕を引っ張られては後ろから抱きしめられ、逃げられないようにホールドさせられる。
「本質も何も、ワシは蓮が好きや。」
「…っ?!ちょ、な、何…して!」
ぎゅっと、力強い男の力に逆らえない。
あぁ、もうこんなに距離が近い。
「キスだけで本気と見てくれてへんようやし…。
お互い健全な高校生やしなぁ…。こうするしかないやろ?」
正直に行ってしまえば、キャパシティは限界だ。
お願いだから、離れてよ。と願ってもこの男には効果はいまひとつ。
するりと、髪を撫でたかと思いきや、掬い取るように髪を手に取る。
「…初めて見たときは自分を疑ったわ。
あんなに綺麗で長い髪の女の子をワシは忘れた事はないって言うのに…。
自分はワシのこと忘れてるんやから。」
「え…?」
“自分。綺麗な髪、しとるなぁ。”
“そうですか?嬉しいです。”
ノイズの走ったモニターが、私の脳裏を過ぎる。
そんな、そんなハズはない。
アレを、私は知らない。知りたくもない。
だけども残酷に今吉は言葉を続ける。
「“また私と、会ってくれますか?”そう言ったのは自分や。…忘れたのか?」
“また私と、会ってくれますか?”
“えぇよ。また会おな。”
どくん、どくんと蓮の鼓動が大きく鳴る。
どうして?どうしてそのことを知っているの?
どうして?どうしてあのときを知っているの?
あの記憶だけは、私の中で孤立したかのような欠片。
きっかけもその後のことも知らない。
だけど、これで確定した。
何故“あのときを知っていたのか”を。
「そ、そんな…ま、まさか…。」
「せや。あの時に約束したのは、ワシや。」
漸く告げられたその言葉に。
私は、思い出した。そんな気がした。
文学少年の異常
(『失われた時は還らないことを記憶せよ。』)
(漸く思い出してくれたか。蓮。)
(だ、だから…あの時に…。)