文学少年の行方

忘れた?いや違う。思い出したくなかっただけ。
それなのに、無理矢理こじ開けては取り戻す記憶。

それで、こじ開けられた記憶は、繋がってしまった。



「忘れてしまったん?」
「ッ…忘れる訳、ないじゃないですか…。」



私は、もう。私でいられなくなった。
だからなのかもしれない。

女の子らしい格好も、女の子らしい長い髪も。
女の子らしい口調も、女の子らしい笑い方も。


何もかも。止めてしまったのは。

髪をバッサリと切り落とし、スカートを毛嫌いし。
表情もコロコロ変えないように気持ちを沈めて笑い方も封印した。

それをする前。
ワタシが最も毛嫌いしてた頃に。アナタに会った。

“綺麗な長い髪の女の子”というのは、切り落とす前のワタシ。
“また会ってくれますか”というのは、笑顔を捨てる前の自分。



「あの時に、これ異常ないってくらいに恥ずかしい思いさせたことを忘れはしません。」
「そうか?ワシは結構好きやったけどな。霧島蓮ちゃん?」



だけど。あの前は本当に酷かった。
思い出すだけでも恥ずかしいアプローチを、何遍も何回もしてきたのだから。

ヒトメボレした、だとか。
今覚えば、アレは真実なのか確認は出来ないけれど。



「ッ…!ですからボクを女の子扱いしないでくれません?」
「女の子やん。蓮ちゃんは。」

「女の子になれないんです。ボクは、だから嫌なんです。」



中世的な顔立ち。
それは角度からみれば男でも女でも見れてしまう。

身長はやや小柄。でもどちらでもいそうな体。だからこそ。蓮は嫌悪した。
男でも、女でも。一目で判らないことに。


だから女の子らしい仕草をはじめとする様々な物を封印した。
かといって、男らしい仕草は何一つする気はない。



「そういってもなぁ、蓮ちゃんは十分女の子やけどなぁ。」



過去のワタシは女の子扱いしたって変ではないだろう。
それなのに、今でも十分女の子という今吉は、蓮にとっては異質だった。



「……、あの時も今も、アナタくらいですよ。そう言うのは。」
「そうか?ワシ、素直な事言ってるだけなんやけどなぁ。」

「白々しい…。で、でも…少しくらいは、信じてあげますよ。」
「ホンマか?いや、嬉しいわ。」



嬉しいと糸目なアナタがニコリと笑う。
本当に白々しい。
だけど、抜けていた記憶の一部が戻って、しかも相手が誰と言うことも。

それを知って思い出したら、そこまでキライになる理由がなかった。



「せやから。」
「?」
「もう偽る必要なんかないんとちゃう?」



時が止まる。
今、何ていった?



「…は?」
「仲良ぅしようや、蓮。ワシ、自分と仲良ぅしたいん。」



仲良くしたい、なんてこの何を考えているか判らない腹黒先輩に、それは少々危険な誘いなのではないか。
多分。多分だ。
油断したら、何もかも食い尽くされる。そんなイメージ。

だけど何故かこの言葉に偽りを感じない。
故に、敵視する理由がない。



「…なんや。前はキスしたぐらいで反論してたんに、もう反論はなしか?」
「ッ…本当に、アナタ変ですよ。」

「まぁまぁ、そう言うやな。」



とか言いつつ。嬉しそうな表情を浮かべていた男・今吉翔一。
だけど、そう悪態をつく。霧島蓮も。

どこか、嬉しそうな笑みだった。





文学少年の行方
(『愛はすべてに打ち克つ。』)
(なら、今度からは『ボク』禁止な?蓮。)
(…格好を諦めてくれるなら、考えます。)