唐突に、今日が特別だって言われても。
あんな自称・彼氏のいうことなんて、聞けないって!
「蓮さん。もう渡しました?」
「…あれ?桃井さん。何か今日…ありましたっけ?」
今日は何かイベントごとがあったのだろうと、振り返る。
今日は6月3日。行事もないし、休みでもなんでもない。
それなのに、何故桃井さんはそんなことを言ったのだろうか。
その答えはその直後に返ってきた。
「何言っているんですか。今日主将の誕生日ですよ?」
「……は?」
可愛らしいバスケ部マネージャー・桃井さつきの情報量は半端ないのは知っている。
名前や学校名は勿論のこと人のクセから分析し、どう動くかまで様々だ。
そんな彼女だし、自分のバスケ部の主将である今吉の誕生日を知ってたっておかしくはない。
だけど、間違ったことがひとつ。
あぁ、ひとつだからといって小さな間違いではなく大きな間違いだ。
「蓮さん。主将の彼女ですよね、」
「いやいや違う違う。何言っているんですか。」
「だって言ってましたよ。主将が。」
しかも、ものっすごく嬉しそうに、なんて桃井マネージャーが言うけど。
そもそも私彼女になるつもりなんてないのに。
(というか、言いふらしてるのか…!)
「あンの、腹黒眼鏡…ッ!!」
あの眼鏡かち割ってやる、なんて今にも振り下ろしそうな拳をワナワナと震わせて握る。
「それで…贈るんですか?」
「贈るって…何を?」
「だから、プレゼントですよ。誕生日なんですから。」
誕生日だから必ずしも贈らなければならないなんてルールはない。
それが気心知っている友人や恋人ならまだわかる。
だが、彼は違う。
彼氏彼女なんて言ってるがそれはただの虚言で嘘でデマ。
私に彼氏なんてものは、存在しない。
だから、プレゼントする義理もなにもない。
「…いや、贈らないよ。
というか、勝手に言いふらしておいてプレゼント欲しいなんて本人が言ってもいないのにわざわざ贈らないよ。」
「おぉーそうかそうか。ワシから欲しいゆーたんなら、くれるんやな。」
ピシッ。幻だと幻聴だといってくれ。
あぁ、夢なら醒めてくれ。
夢で中々醒めないなら、さっさと頭かち割るか水被るかして目を覚まして現実に返しておくれ。
今なら怒らないから、あぁ神様。
と願いながら声のする方へ振り向こうとしたが…止めた。
だって、ちらりと見えちゃったんだもの。
出来る事なら、このタイミングでは会いたくなかった。えぇ、とっても。
…あぁ、このまま見なかったことにしよう。
…うん、それが一番いい。
「……、じゃあ私はこれにて失礼します。」
「まぁ、待ちや。蓮。折角見つけたのに早々に帰んなや。
桃井。サンキューな。」
手をひらひらとさせながら、片手でずるずると連行コース。
男女の差もさながら、流石運動系。
普段から鍛えられているからかまったく腕が動かない。
離せと腕を払おうとするも、まったく動く気配がない。
「…離れてください。」
「なぁ、ワシ今日に生まれたんやで?
何かひとつくらいくれたってバチは当たらんと思うんやけどなぁ。」
「白々しいです。」
最早敵意とも感じ取れる視線で厳しく睨む。
バチなら当たってくれ。
散々アナタは私から奪っておいて何もないセカイの方がおかしいのだ。
(と、特に…ファーストキスとか奪った罪は…大きいんだから)
「そんな怖い顔すんなや。ファーストキスは偶然や、偶然。」
「ッ…!心を読まないでっ!」
しれっと言うアナタが心底腹立たしい…!
ぞわりとして反射的に離れるように距離を取ろうとしたが、腕を掴まれていたのを忘れていた。
ぐん、と伸びたゴムが戻るようにして距離がやや縮んでは戻った。
その僅かに縮んだ距離の隙に片手で私の身体を不意に封じ込む。
反射で逃げようと思ったがもう遅い。
見上げれば満足げな笑みを浮かべて顎をつかんでは目線を合わせる。
「なら蓮の大事なものでもえぇよ。コッチでも今夜でもえぇし。」
視線を合わせながら唇と指でなぞりながらのうっすら開く三白眼。
(目が開く今吉先輩はすっごい怖い。だけど何より今にコレは非常にまずいマズイ不味い…!!)
ぞわり、と鳥肌が立つ。
「あの……、物で勘弁してくれませんか。」
ツレないな、なんてごちっていたが、その表情はどこか嬉しそう。
いや、普段から笑っている糸目だから分かりにくいか、なんて思うけど。
しかし、このあと本当に物で済んだかどうか。
こればかりは、この二人にしか知らない。
その男、危険人物につき
(なぁ、蓮。)
(何、プレゼントならちゃんとしたはずですけど。)
(ワシ、やっぱり蓮のキスが欲しい。)
(はぁっ?!)