とあるイタズラの災難
あぁ、本当に帰りたい。
今日ばかりこんな風に思ったのはそう易々ないだろう。
「おぉ、ちゃんと約束通り穿いてきたな。蓮。」
「も、もう…ボク帰りたいです。」
「まぁ待ちや。折角のデートやのに早々帰んなや。
それに“ボク”やなくて“私”やろ?」
もう、これ以上ないってくらいににこにこしてる。
この腹黒眼鏡先輩…!
出来るなら、その眼鏡叩き割ってやりたい。
「っ、大体…!あのゲーム自体、勝てるはずがなかったんですから…!」
「今更やろ?そないなコト。さて、行こか。」
人の意見は総無視か。オイ。
なんでこんな変な人に掴まってしまったのだろうか。
キライじゃ、ないんだけど…なんか苦手。
「……どこにですか?」
「せやな…蓮は何処に行きたいん?」
「そうだな…図書館とか。」
図書館、と一言発すれば今吉はがっくしと肩を落とした。
(まぁ、言いたいことはわかるんだけど…。)
「…蓮、折角のデートなんやで?」
「だって行きたい所訊かれましたし。私言いましたよ。」
「図書館やとワシ置いてけぼりにされるやん。それは嫌やで?」
置いてけぼりになるなんて言うけど、置いてけぼりにしてもいい。
だって、このこと自体が罰ゲームみたいなものなんだもの。
ちょっとくらい、仕返ししたっていいじゃないか。
そんなことを思ってるのを知ってか知らずか。
今吉が唐突に告げてきた。
「……。」
「なぁ、蓮。お願いがあんねんけど。」
「…なんですか。セクハラ以外でしたら極力訊きますけど。」
まず構える。もう仕方ないよね、うん。
人を掌で転がすことに関しては、誰にも負けてないはずのこの男だ。
それが、この男・今吉翔一なのだから。
「手ぇ繋がへん?」
「…それだけですか?」
「それだけやで?」
今吉はきょとんとした顔でこちらを見てきた。
いや、なんでこっちを見る。
だって、あの今吉翔一だよ?
今までの状況だったら、セクハラ絡みが9割くらいの確率であると思ってたから…。
意外に健全で驚くよ。
「…それだけでしたら…いいですけど。」
そういえば、今吉は『ホンマにえぇの?』と言いつつも、嬉しそうに笑う。
そんな今吉さんに不意にドキッとしてしまった。
今更自分がこんな様子に照れるなんて思いもせず、小さく頷く。
頷けば『そっか』と言われて手がこちらに差し出された。
変な意識をしつつも手をそっと重ね、それをきゅっと握られた。
たったそれだけなのに、心臓がやけに煩く感じた。
「柔い手やなぁ。それにちっちゃくて可愛ぇわ。」
手をすっぽりと覆う大きな男の人の手。
やっぱり男の人の手だななんて思ってわずかに笑みを浮かべた。
この少しほんわかしたムードをぶち壊しにするきっかけが。
唐突に吹き起こる。
「…っ?!」
手を握って唐突に起こったその一瞬。何が起こったのは蓮本人でも判らなかった。
いや、判りたくなかったが正しいのかもしれない。
ただでさえ、今日は短いスカートを穿くように言われたのだ。
そのスカートで風がひらり、といったら起こる現象はひとつだ。
「……蓮。」
まさか。まさかと思ってちらりと見たら驚きで怖い怖い開眼。
見られた、というのがすぐにわかってはもう泣きそうになる。
握られた手もすぐに離れ、そのまま顔を見せなくなってしまった。
耳まで真っ赤になり、スカートを抑えたままで。
この時ばかり、今吉は日頃の行いをちょっぴりだけ悔いた。
とあるイタズラの災難
(うわーん!若松さああん!!)
(おい、ちょ、どうした霧島?!)
(…スカートの中見られた…もうお嫁にいけません。)
(?!!)