結局。気絶させられ。拉致された。
いや、元々夢の中の出来事かと思っていたから仕方ない事なのだろうけど。
寧ろ身の危険を感じる事がなければ誰かの元に居るのは安全だというのだけど。
いや、安心なんて出来ません。
気付いたら夜の外で。追われていたのはゾンビの大群。
それを全力疾走で逃げていたら現れたのが、赤いコートと帽子を纏った男。
そして、私を拉致した張本人。
気付けば、私はとある屋敷の中と思われし部屋にいた。
ご丁寧にベッドに寝かされていた。
夢なのか?これは出来た夢なのか?
「はぁ…。此処、何処…よ。いや、夢…?」
「残念だが夢ではない、ノア・アイリ。」
「……イヤぁああ!!」
絶叫がひとつ。夢の中の出来事で終わらせたかった真実のひとつ。
こんなホラーな世界は現実であってたまるものかと必死に抗っていた…が。
「煩しい。」
「だ、だだ だって…こ、これ。ゆ、ゆゆ 夢じゃ…?」
「現実だ。」
ぴしゃりと夢への逃避を粉砕された。
確かにこんなに冷たい感触が頬に伝われば夢なんかじゃ… ――― 冷たい?
今気付いた、この人。体温がない。まるで死人のように冷たいのだ。
って、まてよ?人じゃないってことは、この人は…何者?
頭の中がぐるぐる。回ってる。何がなんだか解らない。
「…。ノア・アイリ。」
「…何?」
「お前は何処から来た?」
意外と素朴な質問。そりゃ無理も無い。何せ自分は黒い瞳に黒い髪。
彼は黒い髪をしているが、瞳は血のように赤い。あれ?此処 本当に英国?
「何処からって…日本ですけど…?」
「ニホン?それは異国か?」
「異国…まぁ、そんな所ですかね。此処が英国…って事は恐らくイギリスだろうし。」
イギリス…もとい英国だということはわかったが、私の知る知識ではこんなことは起こってはいない。
否。もしかしたらこの英国は私の知る英国とは違うのか?…とも思えてきた。
これは、…まさかパラレルワールド?
そしたら私はまさかトリップしたとでもいうのか?
いやいやいや。なんでまた私がこの世界に飛ばされなきゃならなくなったのだ。
「まぁ、良いだろう。話はつけているが後で主に会わせなければならないがな。」
「…主?」
主ということは、此処の屋敷(と思われしき場所)の主なのだろうか。
結局無理矢理とはいえ。拉致とはいえ。
助けてもらった(?)訳なのだから挨拶しなければならないだろう。
「…ところでノア。」
「…はい?」
「お前は他の者とは違う臭いがするな…人間か?」
「人間かって言われても…人間ですけど?」
人間ではない。って答えはあるんですか?と逆に問いかけたくなった。
そうか。と納得した様子だが、まだ何か考えている。自分には益々解らなくなるばかりだというのに。
「ノア。…お前は処女か?」
「は…ッ?!!」
思わず、思わぬ質問に頬を赤く染め上げた。無理も無い。
会ってそこまで親しくも無いのにいきなり『処女か?』って質問はおかしすぎるしモラルもへったくれもない。
だが、イエスもノーも言ってないのに私の様子を見てかクツクツと笑みを溢している。
解ったのか。だったらそれで良い。言わせるところだったら叫んでやる。
「な、何を言うんですか!別にそれがどうとか言う筋合いなんて…ッ!」
言おうとしたが、指先が後から戻ってきたように痛みが伴う。
指先を見れば、少しだが切れた痕跡が。何処で怪我をした?覚えてはいない。
だけど、乾いた傷口は今少し開いたか少しだけ血が現れて溜まる。
その時、腕を掴まれた。誰かってそんなの目の前の男に決まっている。
事もあろうことか、腕を掴み血が流れた指をおもむろに舐めてきたのだ。
「ひ…ッ!」
余りの無神経さに。余りの唐突さに小さく悲鳴を上げた。
伝わる舌にも矢張り生ぬるさを全く感じさせない。冷たいまま。
そして、舐め終えればチラリと見える鋭い牙。
もう歯じゃない、ギラリと鋭いアレはまさしく牙といっても過言じゃない。
こんな人間居る訳が…って、待てよ?
もしかしてもしかしなくても、この人は人じゃない…?
「アナタ…人間じゃ、ない?」
「そういえば言っていなかったなお嬢さん(フロイライン)。私は吸血鬼アーカード。」
「き、吸血…鬼?」
御伽噺だと思っていた私の世界よ。
夢だと思っていたこの世界は、どうやら現実の物になってしまったそうです。
さようなら、さようなら。私の世界。
初めまして、こんにちは。この世界。
Good-bye my world
(吸血鬼って・・・あの人の血を吸うっていう…。)
(お前の血は少量だが今だ嘗て味わったことの無い味だ…今度はじっくり戴こうか)
(だ、ダメです。絶対反対!)