Come-from-behind temperature



変えようのない事実は致し方無し。
ならばと混乱した頭はさっさと冷やすが上作。

その時に、ふと思った。何故ああなって、何故今此処にいるのかと。



「‥で。私は何故此処に‥?」
「少なくともあの場所よりは幾らか安全だと思うが?」
「それはそうなんですが。」



全くだ。あのゾンビ集団がはびこる場にいつまでもいたら何時また襲いかかるか。
ならばと退治した彼らの元にいるのは安全。

それは、解っているのですが。



「ではアナタは何故私の部屋に?」



まぁ、私の部屋と言うより与えられた部屋なんですけどね。
こんな拾われで普通の人間を(異世界にトリップしたことは別)避難というか居候させてくれたインテグラ様には感謝をしなきゃ。

まぁ、目の前の男が私がこの場所にいることになった原因というか理由なんだが。



「お前の血を貰いに‥とでも言えばよろしいか?」
「お断りします。そして出てって下さい。私は寝たいんです。」



なんて爆弾発言をするんだこの男は!
いや、包み隠さずという意味じゃよろしいんですがこの発言は聞き捨てならない。

最初は名前も聞かなかった私が悪い。
だがそれは名前はあとでも問題なかったし、姿を見れば変人ではあるが人間以外を疑わなかったから。


何を隠そうこの男は吸血鬼。
あの人間の血を吸うという仮想でしかなかった存在が目の前にいるからだ。



「なんだか色々あって疲れているので、寝たいんです寝かせてください。」



疲れているのは事実だ。
吸血鬼とかゾンビ集団(確か話によるとあれはグールとか言ってたっけ)とか。
仮想にしかすぎないものがこの世界じゃ現実で、さも当たり前のようになっている。

それが、この世界の常識。
(といってもこの存在は一部のものにしか知らないとかなんとか)

頭がぐるぐるする。もし夢でも見ていないのなら、一旦眠って頭のなかを整理したい。



「そうか。ならまた後でな。」
「?‥まぁ、‥お休み。」



また後で、という言葉が聞こえたときは首を傾げた。
普通お休みとなれば明日ではないのかと思ったから。

まぁ、イイや。と思ったが、後にこれが後悔の元になるとは思いもしなかった。




用意されたベッドの具合は良いし、シングルにしてはノアの居た自宅のところより広い。
矢張り此処の主・インテグラ様が当主様だからか。でもそのお陰で、安眠を取れそうだ。

疲れの所為もあったからか、そのまま深い眠りに落ちるのも早かった。
しかし真っ暗闇に意識を沈めていたとき。


何かの気配がした。そしてずしりと何かが乗り掛かる。
のし掛かったように重くて、肌に触れる何かは氷のように冷たくて‥‥冷たくて?

思わず目を開けた。
真っ暗の空と部屋に、何故か白い物がぼぅっと浮き出る。



「な、何‥?」
「起きてしまったか。」



朧気に聞こえる。音。否、声か。闇に響くこの声。
まさかとは思っていたが。

あの、男のひと…?あの、吸血鬼…?ってか、これって‥夜這い‥‥?



「あ、あの…何…を、?」
「何。大人しくしていればすぐに終わる。」



大人しく…?そう言う割には、冷たい指先が私の首筋を撫でる。

もしかして、この為に先程嗚呼言ったのだろうか。
そして。私が眠りに落ちている間に…何をするつもり?


ぎらりと見せる牙。そして顔を近づけてくる。私は逃げられない。
向かう先は、首筋。まさか、まさかのまさかか‥?!



「ちょ、やだ…っ!あぁっ!」



時すでに遅し。ズプズプと犬歯が肌に、首筋に食い込む。
だが、それは痛いという感触では決してなかった。この感覚は寧ろ…



「やぁ…。なに、これ…あ…、や、ぁあ…っ。」



こんな感覚は知らない。
奥のソコからきゅぅっとクるような、知ってはならない何か。
恍惚に歪み、知らず知らずにそして貪欲に求めてしまいそうなもの。

これは、若しかして俗に言う ―――快楽?

確信はない、が。何でか嫌じゃない。血を吸われているのに、なんで嫌ではない?


寝惚けていたとはいえ。寝起きとはいえ。
こんなことになるとは思いもしなかった。



「ククク…初めては吸血される具合は如何かな?ノア・アイリ。」
「はぁ…なんて、事…夜這いなんぞ、掛けて…!」

「何。言ったはずだが?」



吸血された所為か、非常に寒い。まるで体温を奪われたような感覚。
逆に彼は、熱を孕ませているかのように熱っぽく低い声が耳元で掠れる。
くすぐったく、また魅惑ともとれるあの声。



「今度はじっくり戴く、と。」



よろしくない言葉が耳元で言い出してくる。
甘い甘い強い毒。

熱を籠らせた舌が吸血痕をじっくりと舐めあげ、そのままするりと咥内にも侵入してくる。

その時にキスを飛び越した絡みをしているのだと解ったが、体温が低くなった所為か眠さが余計に意識を鈍らせた。


月夜が暗く更けた頃。

『お前は私のものだ』とも耳元で言葉が朧気に記憶されていた。





Come-from-behind temperature
(信じらんない…夜這い掛けて血吸うなんて…鍵掛けたのに。)
(私に鍵は通用せんぞ?すり抜けているからな)
(は?!じゃ不法侵入してるって訳?!)