melody story



日常は例えるなら海のようだ。
荒立つ波、穏やかな波。それを繰り返し繰り返し行われる。

それが長く続いたり、通り雨のように短かったり。


だが、そんな日常から急に変わってしまったら どうなるのだろう。
急激に穏やかだった波が、激しく音を立てて大波になったり。

結局は穏やかであっても激しくあっても。裏表。その裏に潜み、真反対であるものだ。



「はぁ。」



最近やっとこの生活が続いては慣れた。

射撃の練習に練習。そして屋敷内を覚えるためにあっちらこっちら。
そして夜には…アイツに襲われそうになる日々。

今までこういった生活なんか一回も味わった事なんかなかったのに。
こういった日々もたまには云いのだけど少し刺激的過ぎるていうか。


そう思うと、あのコロの日々を思い出す。
そして、今では出来ないであろうあのことを。



「おい。」
「わっ!…って、アナタですか。」



いきなり壁から上半身だけ現れる物だから本当に心臓に悪い。
最初のときなんか幽霊と勘違いして全力で逃げた思い出がある。
今は多少慣れたけど、不意打ちだとどうも逃げ腰気味になる。
(うーむ…やっぱりまだ苦手意識があるからかかな…。)



「いい加減に慣れたらどうだ。ノア・アイリ。」
「私は幽霊とかホラーとか。こういった類は苦手なんです。」



そう。ホラーの類や幽霊の類が大の苦手である私。乃亜藍璃(ノア・アイリ)。
その為あのゾンビ軍団(もといグール)でも案の定逃げましたし。
こういった登場の仕方をする彼・アーカードの登場でも逃げ腰になりますし。

それを面白そうにクツクツ笑うのだからほんのちょっぴり腹が立つ。
(でも慣れたいけど慣れられないんです!怖いから!)



「…で、私を弄りに来たんですか。それとも襲いに来たんですか。」
「それも面白いが…別だ。」

「これはお前の物だろう?」
「はい?私のって…。」


そう言って出された物は、ひとつのカバン。間違いなく私のだ。
(アレ?最初の時は手ぶらだった気がするが…思い出せない。)

こういうとき、手ぶらでも荷物持ちでも特に意味も問題も無かった。けど。
自分の荷物は、何故かカバンひとつ。

中身はペンケースと無地の紙。あとヘッドフォンと音楽機。
こういったものが入ってるのに何故生活必需品の代名詞とも言われる携帯が入ってないのかは謎だったが…。

まぁどうせこの世界では携帯電話は通じないだろうと思ったので、特に不便も感じなかった。

ペンケースの中身はシャープペンシルとその芯。あとはボールペンぐらい。
そして、無地の紙には絵やら楽譜やらが半端に記されていた。

楽譜。そういえば、趣味で楽譜を書いていたっけ。



「…あの。」
「何だ?」



聞きたいことは色々ある。
『何で私の荷物を持っているんですか?』とか
『何処でこの荷物を見つけたのですか?』とか。

だけど、今は。その質問よりも。



「ピアノ…って此処に有りませんか?」
「ない事もないが…どうした急に。」


ピアノのこと。つまりは楽譜によって動かされた訳だ。
そして質問の感想は『あ。あるんだ。』と後にじわじわと思った。
やっぱりこの広さだし、警備員の数も半端無いし。

あるものも高価そうだし、ピアノはあってもおかしくは無いかなとは思ったけど。
あったことに少し嬉しさを覚えた。
そして、その嬉しさを引きずって、彼の質問にも素直に応えた。



「私、趣味が作曲でピアノだったので。」
「ほぅ。見かけによらず随分高尚な趣味だな。」

「と言っても、学校出る前までの趣味なのよ。最近はそれどころじゃなくて…。
この楽譜は高校の時に書いていたやつ。でも懐かしいな…。」



今さり気なく貶されているのにカチンとはきたが、敢えてスルーする。
(一週間は経過しているから解った事なのだが。
この人は英国紳士っぽく見えて唯我独尊だ。しかも加えて相当のサディスティック!)


しかし、ここに書かれた楽譜は中途半端で終わっている。
きっと当時はいい音が思い浮かばなかったのだろうか。

そして、忘れ去られた今。此処で思い出すことになったのだ。


唯一つの忘れ物。唯一つの置き忘れ。
そして、過去遠くに置き、そして記憶とかこの彼方へ堕とされた。唯一つの。旋律物語。





melody story
(そうだ。これからこの続きを書こ。あー、でもピアノが…。)
(明日にでも頼めばいい。だが、ノアにはその前にやることがあるだろ?)
(へ?何かすることって…ちょ、それはないでしょ!!)