Deep red guidance



夢のなか。
こればかりは誰にも支配されない。無意識だけの世界。



「‥‥ーん‥。」
「おい。起きろ。」



深い深い眠りの中。そう易々と目を覚まさないのが、夢の中の自由だからこそで。
それを妨害しようにも、中々目を覚まさないのもあって。



「んー‥あと五分‥。」
「そうか‥そんなに私に無防備を晒したいか。ノア。」

「!!!」



だが。夢心地の中であろうとも、落としてはいけない言葉を幸いに聞き取れた。
そのお陰でか、夢の中から一気に目を覚ました自分が居た。

幻聴かと思っていたものは、現実だったから。
目が覚めればそこには何故かアーカードの姿が。

例によって鍵を掛けたはずなのだが、恐らくまた壁を抜けたのだろうと思う。
(これ自分トコなら普通に不法侵入だからね!)



「‥あ。あ、‥‥お早う御座います‥。」
「あぁ‥。お早うノア。」



あっぶない危ない‥。彼・アーカードに無防備なところを晒せないったら。
不法侵入なんかあったもんじゃない。

晒したら最後。今の自分ではなくなるかもしれない。いろんな意味で。
(そもそも貞操の危機すら感じるわ!)
彼はいろんな意味で反則的だと思う。
外見は長身痩躯で、パッと見は英国紳士なのに実は中身はとんでもなくて。
紳士だと最初のときは思ったが、その面影すら今は感じられない。
とんでもなくサディストなのだ。おまけに唯我独尊。
だから部屋に侵入しても悪いとは案の定思ってないし、誰も咎めないのだ。


そういや、反則的といえば…。



「‥‥あ、あの。ひとつ聞いても良いですか?」
「何だ?」

「‥‥エロ光線的なのってあるんですか?」
「‥‥。」



前にベルナドットから聞いたことがある。
彼は人の思考をねじ曲げ、言うことを聞かせることが出来るのだと。
断固として折れなかった人に暗示のように自分の思うがままに仕込めたのだと。

その力は不明。彼が言うにはエロ光線かなんかだとか。



「ほぅ、私がそのようなものを持っている‥と?」
「私はその話を聞いたときは、暗示かなんかかなって思ったのが正直の感想ですけど。」



そんなものが使えるなど、考え付かない。といったところが私の本音だ。
確かに彼なら使えてもおかしくはないのだが、仮に使えるなら私は今まで以上に警戒しなければならないからだ。いろんな意味で。
色々考えているうちに、彼が自分のベッドに腰を下ろしてきた。
そしていつもの、赤いサングラスに手を掛けて外しては此方を見るのだ。じっと。



「それというのは…これか?」
「はい…?」



血のように赤い瞳。危険な色なのに、何処か綺麗。
まともに彼の瞳を目の当たりにしていなかったから不思議にも見入ってしまう。

瞳を唯まっすぐに見つめれば無意識にそれにしか意識を運べず、気が付けば起き上がっていたのにまた寝かされる。
否、押し倒されたに近いわけで…。



「!ちょっと…!」
「何も考えるな。」



慌てて起き上がろうとしたが、指先が目の前に現れ、思わず指越しに瞳をじっと見てしまう。
アレ?おかしい。指を見ていたはずなのにいつの間にか瞳で、しかも。瞳から目が離せない。

そのまま拘束されたように瞳をじっと見続け、その間に指がゆっくりと、ゆっくりと。
目、鼻、唇にと降りながら彼の声が甘く低く甘美を孕めて囁いてくる。



「ノア。お前は、何も 考えなくていい。」



その声は、その瞳は。じっと見れば見るほど危険さを孕んでいた。
そう思ったが最後。意識が暫く飛んでいたかのように記憶の一部がぽっかりと穴になっていた。


その時。沈みかける意識がこういった。
(あぁ、彼が言ってたことはこういうことなのだと。)





Deep red guidance
(あ、あの…私の記憶の一部が抜けているんですけど…。そして、何か前にも味わった感覚があるんですが…)
(あぁ、お前が気にする事はない。何も 気にする事はない。)
((この感触…またやられたか…はぁ。))