quiet canary
こんな質問は、所謂好奇心で。但し好奇心は、時に危険であり。
思わぬところで、思わぬことが起こる。
「あ、あの‥質問良いですか‥?」
「ん?ノア嬢ちゃん。どうした?」
「あ、あの‥アーカードのことなんですが‥。」
「旦那がどうかしたのか?」
何故私が、彼・ベルナドットに質問をするかと言う事は。
しかも質問の対象がよりもよって、アーカード。本人ではない。
それもそのはず。何故ならば、本人には聞けないからだ。
「‥Mっ気があるって本当ですか?」
「は‥っ?!何でそうなるんだノア嬢ちゃん!」
ベルナドットが酷く驚く。そりゃそうだ。
だって、Mッ気があるという疑問を持たれる相手がよりにもよってアーカードだからだ。
あの常に何を考えているか解らない人(?)
そして、あんな危なっかしい銃を常に持っている、あの彼が。
「前に聞いたんです。アーカードは敵の攻撃をわざと受けて、しかも笑ってるって。」
話をすれば。こうなる。
私は彼の…アーカードが実際に実地で戦う姿はあの時、初めて会った時ぐらいしか見たことが無い。
しかしあの時は距離も遠かったし、何より彼が既に片付けてしまった後の為に受身の姿は見たことが無いのだ。
つまり、攻撃を唯真っ向から受ける姿は 想像もつかないわけで。
「常に笑ってるだけでも十分不気味なのに、敵の攻撃を進んで受けるなんて‥Mっ気がない以外に考えられなくて。」
本人には絶対に言えない事だし、それに恐ろしくて言えない。
自分の中では絶対的なS。
つまりサディストにしか思えなかったので。M、マゾヒストという説を聞いて嘘だと信じたかった。
普通ならサディストしか思えない彼が、何処でマゾヒスト疑惑が生まれたのだか。
だが、敵の攻撃(主に殺す勢いの類)を真っ向で防御も守りにも入らずに。
幾ら不死だとか言われても、自ら望むなんて想像もしないわけで。
「私はずっと前から‥アーカードはサディストだと思ってたので‥」
『ほぅ‥そうか』
「「!!」」
二人して最も聞かれてはならない者の、声がした。
恐る恐る声のした方へ振り向けば、先程まで誰も居なかった壁から現れた赤い影。
その影はいうまでも無く、アイツだ。
面白い何かを見つけたように笑うあの独特な笑み。
「私がマゾヒストとはな‥クク。面白いことを言う。」
「あ、あ、あの‥いつから?!」
「お前が私のことで質問してからだ。」
(つまり最初からか!)
やってしまった自体に後悔を脳裏で散々やっているときに、何故か浮いた。
ふわりと、腹に何かを引っ掛けたような感触だけを残して。
…って、浮いて?
そう。今気付いたら彼・アーカードに抱えられているのだ。
逃げようにもがっつりと掴まれて逃げることが出来ない。
「‥こいつを借りてくぞ。」
「ちょ!ま‥待って、助け。」
助けて。と言い切る前に、一緒に運ばれてその場から移動された。
まさに、悪夢。 そう思った。
運ばれた先、その場所は一部の者以外は誰も知らない彼の部屋ともいえる地下室。
この場所は連行される以外は来ないため、何処にあるのかも知らない。
何よりこの場所は一部の者しか知らないため、助けなど誰も来ない。
今。私は壁に追い込まれている。その場から離れようにも両手を彼の腕一本で封じられている。
正直この状態は危険以外には何も感じないのだが、恐怖を見せればそこを狙われる。
それを知って私は、落ち着いて言う。声は多少の震えを必死に抑えながら。
「‥‥で、何で此処なんですか?」
「この方が私がマゾヒストであるか解るだろ?」
ぞくり。なんだこの笑い。あの刻むような笑みは何度見ても怖い。
このときに大体思うのは 身の危険。
勿論生死を問うような事ではないのだが、貞操の意味でも大分危険。
増してや自分は純潔は保っていて、更に此処の人間ではない。
此処の人間ではないということは、此の世界のルールには適応されない。
言ってしまえば、吸血鬼に吸われるとどうなるかという常識が通用しないのだ。
簡潔に言えば、吸血鬼に吸われても吸血鬼にもならなければ食屍鬼にもならない。
そして、何より困るのは、吸血による性的快感。
過去に数回やられたが、これが起きるのが非常に困るのだ。
(本気で貞操の危機を感じるから!)
「い、いや…此処まで知りたくないかな…なんて。」
「何。人間の好奇心は大事にした方が良い。私で解る事なら“何でも”調べるが良い。」
その“何でも”が物凄く怖いんですが。
その“何でも”が物凄く恐ろしいのですが。
逃げようにも、背後は壁。前にはアーカード。
そして、あの不気味な刻むような笑み。もし、あの目が見えたら最後だ。
必死に目を瞑っていたが、それが仇となるということを知らずに。
眼を瞑っている間に、急に唇に感じた冷たさ。
この冷たさは私は知っている。彼の、持たぬ体温。
その時に後悔した。嗚呼、キスされているのだと。
長い口付けから開放されれば、矢張り聞こえた闇の奥からの 声。
「さぁ、夜は永い。ノア、たっぷり楽しもうじゃないか。」
拝啓、誰かさま。
誰ですか、この人がMっ気があるなんて言ったのは。
この人は、正真正銘のドSです。
とんでもないサディストです。
quiet canary
(もう、もうイヤだ。キスされるわ吸われるわ。完全に玩具扱いじゃない)
(ノアのあの声は素晴らしい。まるで美しい声色を持つカナリアのようだ)
(もう忘れて忘れて!!)