One time break


最近、夜に眠っていない気がした。
原因は、言わずとも解っているのだが。


「ふぁ‥眠‥。」
「おや、随分お疲れのようですな。ノア嬢。」
「あ‥お早う御座います。」


声を掛けてきたのは執事のウォルターさんだ。私はぺこりと頭を軽く下げる。

今はさしずめ気分転換に、ということか。
私としては余り夜更かし生活を長引かせたい訳じゃないが、こうアレの所為で強いられては時々リセットのように規則正しい時間に変えたいものだ。
(なにせお肌の天敵ですから、睡眠不足って)


「最近眠れてなくて‥。原因は解っているんですが。」


原因になったことを思い出すだけで、じわじわと青筋を浮かべつつ、首に巻かれた包帯にそっと手を当てる。
そう、理由はこの包帯を巻く羽目になったヤツである。

毎晩毎晩血を貰いにと夜這いを仕込んだり、自分の地下室に連行したり。
結界‥ってやつを貼れば侵入されることはないらしいが、生憎そういったものはないわけで。
とまぁ、世界の適応から外れた私は人間として生きれない。ならばと、それらしく毎晩必死に防衛する日々の夜を過ごし続けている。
結果として、睡眠不足になるのは無理もない話である。


「でしたら少しお休みになられたら如何ですか?」
「あ‥はい。ではお言葉に甘えて‥。お休みなさい。」


この後に『居候の私にお気遣いなく』と返したが『私は執事ですから』と畏まった風に返ってきた。
(あぁ‥なんて優しいんだ)
ぺこりと頭を下げ、自分は私室に戻ることにした。
朝方ならばまだヤツは寝ているということなので、二度寝にはなるが唯一の睡眠が取れる。
(あぁ、なんて幸せな時間だろうか)

ほんの1時間眠れれば良い方だろう。
そう思いベッドに身をダイブさせて、そのまま意識を沈めた。


意識を沈めれば、時間の経過など意識にもなく、刻々と過ぎていく。



暫くして意識が浅くなり、ゆっくりと目を開けた。そのはずなのに、何故か真っ暗だった。
ふかふかのベッドで寝てたはずなのに、非常に冷たくて。
ダイブしたから何かが上に重なることもないのに、何かに包まれてて。

まるで、体温の持たない‥‥持たない?
その原因は、すぐに解った。


「‥‥起きたか。ノア・アイリ。」


この声。非常に聞き覚えがあります私。
真っ暗でよく解らないけどこの声は間違えません。

‥ヤツだ。


「な、なな‥アンタ、アーカード!?」
「‥五月蝿いぞ、ノア。」


大事件発生。なんと彼と一緒でした。
だが、この場所は何処だろう。

ぎゅぅと抱き締めているわけでもないのに。狭いし、真っ暗だし。
その所為で声はよく解るし、やけに周りが冷たいし。

だが今は冷静を装ってる暇はない。例によって突っ込むのだ、私。


「いや五月蝿いじゃなくて、何で此処に居るんですか!」
「此処は私の棺桶だ。」


‥‥は?
頭のなかが真っ白になった。

私は自室で寝ていた。それはしっかり覚えてる。

なのに、何故アーカードの地下室‥しかも棺桶の中で寝ているんだ。
有り得ない。いや、寝相なんて可愛らしいことではない。断じて!

だとしたら‥理由はなんだ?
いや、ある。確実な理由が。
これをヤツの口からはっきり言わせよう。


「な、なな何で‥私がアンタの棺桶にいるのよ!」
「私が連れてきた。」

「‥‥ま、まさか。」
「あぁ、寝ている間に連れてきた。」


ハイキタ犯罪者。いや、誘拐犯だよコレは!
いやいや犯罪者とか誘拐犯の他にも不法侵入とかしてるからね!

私だけでも罪の数を数えたらどれくらいあるのだろうか。

「安心しろ、此処ではしない。」
「いや、その心配じゃなくて!」


不安はたくさんある。何せ舞台は地下室だ。
この場所で心配するなと言うのが無理な話だ。

だが、彼は意外なことを発してきた。


「動くな。声も出さずそのままでいろ。ノア。」

言葉だけなら大分危ない状況だが、不思議にも首筋に牙を当てることも舌を這わせることもせず、とにかく静かだった。

呼吸も比較的定期的で静かで、まるで眠っているようで‥‥眠って?


「‥アーカード?」


返事がない。まさか本当に寝ているのだろうか。
もし眠っているなら、自分が無理をして起こすこともない。寧ろ自分もここで眠れる。
(ここって言っても場所棺桶だけど)


仕方ない。今はがっつり掴まれてて動けない。
眠っているなら、寝起きの行動が少し恐ろしいが好きにさせよう。


別に、私から折れたわけではないのだが。





One time break
((棺桶の中一緒なのにすっぽり入る私‥。というか、よく入ったよな‥))
(‥‥)
(‥寝顔、見れないのがちょっと残念だわ。)