雨下で散華を謳う
雨が降る。静かに、だけど。
この雨の下で行われたとある悲劇。
いや、違う。
*
雨が今、降ってた。
闇の中で雨の音だけが静かに地面を叩く。
そして、彼女を囲うのは衛士の姿。
嘗て彼女は世界虚空情報統制機構の准佐とも呼ばれていた。
だが、存在そのものはあやふやで、所属はしているものの、部隊も不明で階級すら幻のようなものだった。
唯判っていたのはその場所に“存在(い)た”ということだけ。
そんな彼女が、先日に抜ける手続きを踏んだ直後の絵だ。
そして、わたしは悲劇を目撃する。
『頼むから…これ以上関わらないで。』
“…この声は…”
間違いない。いや、間違ってあるものか。
そして、この先で行われる結末も。なにもかも、判っていた。
何故ならば。彼女は。
『本当ならこんなことしたくなかったけど…。』
『仕方ない。“ワタシ”を知られたから生きて還せない。』
“わた、し…?”
するりと、ショットガンを構え雨に濡れる髪で表情は見えない。
判ったのは、とてつもなくおぞましい、殺意。
『聖戦の御名において、命ず。』
『生きて、ここから還れると思うな。』
“ダメ!それは、それだけはやっちゃダメ…!!”
『術式開放 発動
―ゼロミッション Zeromission― 』
それは、唱えてはならぬ禁断の呪文。
ぽつりと、それもハッキリとした声色で放つ瞬間の言葉は破壊を表す。
持っていたカードが独りでに浮かび上がり、光を纏い、その形はやがて針か剣か十字架か。
それに近い形を成す。
その形を成せば、次に出されたのはショットガン。
一発弾丸を空に向けて放てば、光は雨が降るかのように自然で音もなく。
次々に身体を貫かれ串刺しになっていく。
惨殺でもされたかのように、彼女の周りには十字架の光で赤く地面が染まる。
周囲には吐き気すらしそうな血の臭い。
この技は、相手を斃すのではない。殺す業なのだ。
屍と化した…いや、かつては仲間だった彼ら。
それをこうもあっさりとへし折って潰した。
『だから、言ったでしょう?』
『聖戦の名の下、することは何でもアリ・だと。』
中心にいた彼女が、にたりと不気味に笑みを浮かべていた。
そう言い放つ直後、目の前が真っ暗になる。
これがは、押し殺したかった。いや、封印したままにしたかった。
夢ではない、コレが。ヒスイ=ジハードの起こした事件である。
*
「…ッ!!あ…ぁ…っ。」
覚醒したかのように両目を開ければ、見慣れた天井だった。
そう、今までのはすべて夢。
彼女。ヒスイ=ジハードが第三者の目となって見ていた光景。
ヒドイ夢だ。と嘆くように呟く。
いや、これは彼女で謂う闇の部分だ。
かつて、自分の保身のためにと仲間殺しを行ったことを。
遠い記憶ではあるが、事実だという事に変わりなくて。
本来ならば、仇討ちにされても捕まったら即刻処刑されても文句のひとつも言えまいというのに。
この事件は、全くもって知らされてなかった。
それが、ヒスイにとって気分が悪くなるほどに気になる現状だった。
この、真相が知りたい。と彼女はそればかり願っていた。
「おい、どうしたんだ。ヒスイ。」
「!あ…ラグナ。」
先程の夢に気をとられていたからか、声を掛けられた事に驚いてしまう。
声のするほうを向けば、そこにはラグナがいた。
ほっと一安心の息を吐く。
「魘されてたぜ?何かあったのか?」
「ううん。なんでもない。ちょっとイヤな夢を見て。」
へらり、と笑みを浮かべるがどうしてもその笑みは作り笑いだ。
そりゃそうだ。彼女の、闇を思い出させてしまったのだから。
そんな中。ぐいっと引き寄せられた。
彼・ラグナが腕を肩に回して引き寄せてきたのだ。
「ちょ!ラグナ…?」
「少し黙ってろ。」
ぶっきらぼうに返す言葉だけど、ぎゅっとされる体温がとても優しく温かい。
こんな風に誰かに抱き寄せられるなんてなかったから、驚きはしたけど嬉しかった。
「泣きそうな顔してんじゃねぇ。ツライなら少しぐらいは頼れ。」
「うん…有難う。ラグナ。」
いずれ、あの事件の真相を知らなければならない。
今のささやかなひとときが終わってしまっても、私自身には残るから。
ちらりと窓を見る。今は雨が静かに降っている。
雨はあの時も変わらずに、残酷に静かに地面を濡らしていた。
雨下で散華を謳う
(いつか…話す。だから、今は。)
(判ってる。暫くこうしてやるよ。)
(有難う…ラグナ。)