鎮魂歌を眠らせて

時々思い出す。かつての私のことを。
存在すらあやふやな頃に。

私は、多くの罪を犯していったことを。
世界のため、言ってしまえば彼女のためにと。

血で血を洗っていた惨殺の記憶を。
思い出せば思い出すほどに、消えてしまいたくなった事を。


でも、今は違う。



「ラグナ。」
「あ?どうかしたか?ヒスイ。」

「ううん。なんでもない。」



ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。
彼に会ってからは、過去の私は所詮過去なんだって思うんだ。

死ぬなら、生きるなら。
彼のためになろうとも思えるんだ。


それなのに、私の影は時々残酷な事をしてくれる。
多くの視線が、そう確認させた。



「…囲まれてるね。」

「チィッ!面倒なヤツに捕まっちまったな…。」
「ラグナ。此処は私に任せて。」



彼の前にスッと出て、大剣に手を添えていたラグナを制止する。
確かに私を出会う前は一人だったのもあるから強いだろう。

だけど、彼に守られてばかりでもいられないの。



「ヒスイ。」
「大丈夫。この大勢は私があしらった方が早い。」



理由なんて、適当でよかったんだ。

ショットガンを取り出し、目で合図を送る。
“空撃ちしたらすぐに術式を使う。上から駆け上がって。”


その合図に軽く頷けば、すぐに実行する。
今は時間が惜しい。

ラグナは無事にこの人数から逃れられたと認識すれば、すぐに術式を開始する。
―――出来る事なら、余り見られたくないものでもあるから。


意識を高めて、呼吸を整え、目を閉じる。
いつも手加減していた力を、彼と共にいるために捧げて。



世界が一部欠ければ、弔いを謳おうか。
嘆きと悲しみで、黒に覆われないように。

少女は一人、世界の果てで擲った。
世界でただひとりの彼女に別れを告げるために。

かつての私に“サヨウナラ”を告げて。



「―レクイエム Requiem―」



ショットガンを構えて空を撃ち、光の雨を降らせる。
その段数は弾幕の如く。

そこから逃れる事は難しい。
案の定、光の弾丸に衛士は次々に倒れていく。


すべてに戦闘不能を目で確認すれば、ヒスイはふぅと息をつく。
そして、ひょいとラグナが上っていた所を追うように駆け上がる。

はぁはぁと息が荒い。多分、人数が多いくせに変に加減をした所為だ。
本気モードの自分なら、間違いなく惨殺事件にでも発展していただろう。

だけど、私の力は。人殺しの力じゃない。


辺りを見渡し、赤と白の影を見つければ追う。
影もまた気づいたのか、逃げる足を止めて、振り向く。



「ラグナ。」
「その様子だと…終わったようだな。」

「うん。でも気絶させただけだから早く…。」



『行こう』と声をかけようとしたら、ふらりと前に倒れる。
地面に叩き付けそうになったところを、ラグナの腕で救われた。



「ッ!お、おい!」

「ごめん…人数多いし加減するの難しくて…。」
「ったく、この馬鹿が…。」



ぐしゃっと白髪を掻き、そのまま腕を捕まれていたと思ったら。
気づけば腕は首に回すように下ろし、前には固いけど暖かい何かが当たる。

目をあければ、背負われていた。



「ん…?ラグナ…?」
「今は黙ってこうされてろ。」



大きい背中がとても頼もしくて。思わず笑みを浮かべた。
いつも独りだったからか、背中のぬくもりが“独りじゃない”ということを再確認させてくれる。

それが、今のヒスイにとっては嬉しいことだ。



「ラグナ。」
「あ?」

「…あったかいね。」
「そうかよ。」



きゅっと軽く後ろから抱きしめれば、ぶっきらぼうに返される。
だけどその言葉はとても温かかった。





鎮魂歌を眠らせて
(ねぇ…守られてばっかりだね。ごめんね。)
(馬鹿言ってんじゃねぇよ。)
(もう少し、私。頑張るよ。)
(それでいい。)