手料理遊戯
きっかけはなんであれ、
気紛れと茶番が生み出した、とある遊戯。
拉致られて、もう数日経った頃。
そろそろ開放されたい気持ちがあるのだけど。
この男のことだから逃げても、いつの間にか捕まって飛んでもないことをされるだろう。
というわけで、こうしてひとりの時は弁当を作るのだ。
食堂というか食事をする、そういった場所もあるらしいが、
私の姿は統制機構に見られるのは少々厄介だとハザマは言っていた。
(というか、私は今犯罪者として追われる立場だからね!)
「‥うーん‥。そろそろかなぁ。」
「どうかしましたか?ヒスイさん?」
ヒスイは急に現れた気配にびくりと震え、慌てて振り向く。
そこにいたのは、此処の部屋の主で私を拉致った張本人のハザマがいた。
普通に入ってきたならすぐにわかったが、この男はあろうことか気配を隠してた。
「っ!‥気配隠して後ろに立たないでよ。」
「それは失礼しました。‥で、何をしていたのですか。」
物腰は柔らかいが、どうも何を考えているのか読めなくて苦手だ。
それなのに、何故こんな男の目に止まってしまったのかと思う。
「あぁ‥。まぁ、弁当のひとつでも‥。」
「ほう?しかし一人分ですね。」
「まぁ、私の分だしね。」
丁度ヒスイがしていたのは弁当箱に詰めていたところだった。
弁当箱におかずを詰めている光景を、後ろからまじまじと見るハザマ。
何も言わず、余りにも見られていると背中越しに判る。
だけど、彼に視線を送ることなく立った一言だけ言い放っただけで淡々とこなす。
「……何?」
「私の分はないのですか?」
ハザマの一言に思わず『は?』と声を上げてしまった。
勿論、作業もぴたりと止まる。
『冗談か?』と思ったが、言い放った本人は本気らしくこちらをまじまじと相変わらず見たまま。
「ヒスイさんの手料理を一度味わってみたいですね。」
「…そんなこと言って私が作るとでも?」
なんでアンタに手料理を振るわなければならないのだ!という気持ちを冷たくして言い放つ。
そもそも、作らなきゃならない理由なんてないのに。
「つれないですねェ。でしたら、何がお望みですか?」
「そうね…今後私に関わらないと誓ってくれるなら考える。」
「貴女…本当につれない方ですねェ。」
はぁ、とため息を吐いて言う。それを許可してしまったら、作るも何もないからだ。
それを判ったような彼に軽く舌打ちした。
「…って、言っても。」
『アナタは嘘つきだから、どうせ偶然に見つけて…だとか言うんでしょうが。』
とかヒスイは在り得そうなことを淡々に話す。
(いや、だってこの男ならありえなくなさそうなんだもの)
「そうね…私を開放してくれたなら考える。」
「…それは、私が貴女を逃がす、ということになりますよね?」
「アンタのことだもの。私がこの場から逃げられたとしてもきっと見つけるでしょうから。
見つけて此処に連れ戻せたら、手料理のひとつでも考える。」
珍しく、彼にチャンスを与えてしまう言葉に自分自身驚いてしまうが、
彼ならこの茶番に乗るだろう、と思ったから。
なんだかんだ言っておきながら、この男は私を追うのをやめない。
そう、思ったから。
「ゲーム、ということでしょうか?」
「まぁ、そんなところね。見つけられたらアンタの好きなものでも作ってあげる。」
茶番だろうけれど、そこから始まったのだ。
世界虚空情報統制機構の諜報部の大尉であるハザマと、
元・世界虚空情報統制機構の准佐であったヒスイ=ジハードとの。
奇妙なゲームが始まった。。
(きっかけは、手料理からだったのに)
手料理遊戯
(…因みに、好きなものってなんなの?)
(ゆで卵です。)
(ゆでたま…、え?)