卵と弁当×ゲーム


「…はぁ。」


ヒスイ=ジハードから、ため息がついた。
それもそうだ。

私から提示したゲームに、私が負けたからだ。



『では約束ですよ。ヒスイ=ジハード。
私が勝ちましたので、弁当の件。お願いしますよ?』



数刻前に言われた言葉が過ぎって、またため息を吐く。
ゲームというか、ちょっとした賭け事だったのだ。

私が統制機構のハザマの部屋に拉致られてから、ほぼ軟禁状態だったからと自分用に弁当を作っていた。
それをハザマが見て『ヒスイの作る弁当が食べたくなった』と言い出し、そこからゲームの話になる。

『私、ヒスイを開放し、連れ戻せたら考える。』という賭け事。


結局のところ、ゲームは負けたことになっていた。
まぁ、約束は約束だし。と今はゆで卵を作っていた。

弁当に入れる際に何が好きだとかそういったことに興味はないけれど、
キライなものを例えば入れたときに今よりもっと偉い状態になるだろうとも思えたからだ。
(前に気紛れで訊いた時には固まったね、うん。)



「っしかし…、ゆで卵。ねぇ…。」



ちらりと、鍋の中で今だ冷水の中で沈められている卵を見てぽつりと呟く。
ゆで卵が好物ならば、私が態々作る必要なんてないだろうに。

しかし、ハザマは『ゆで卵こそ食べる芸術』だとか言ってたが。
つくづく、彼の美学だとか思想だとか。全くといっていいほど判らない。

考えるのを止めて火をつけようとしたとき、ヒスイの手が止まる。


 
「……そういえば。ハザマはどっち派だ?」



『どっち派』というのは、半熟か固ゆでかのこと。

たくさん作るようには言われたが、卵は茹でる長さで変わるのだ。
違うものを作って違うと返されて勿体無いことはしたくはない。



「…取り敢えず、ベターな固ゆでにするか。」



ゆで卵、といえば矢張り固ゆでなので、固ゆでで作ることにしよう。
とヒスイは結論に至り、先ずは固ゆでにしようとタイマーをセットする。

それと同時に、別の鍋を出し水を注いで火をつける。
別の卵は半熟の予定と取り出して、暫くして沸騰すれば火を止め卵を入れた。



「あとは…よし。沸騰もしたし、あとはタイマー待ち、と。」



ゆで卵なんて簡単だけど余り作らないからうろ覚えだけど多分大丈夫だろう。
まさか、好きなものを敢えて選ぶハザマは本当によく分からない。

だけど、彼も彼で本気だから。益々判らないことだらけだった。



「大体…なんで私なんか、」



ピピピ、と考えを打ち消すかのようにタイマーが鳴ると、ハッとしてすぐに鍋から卵を掬い上げて冷水に浸す。
なんでも、卵に余熱が残ると半熟でも固ゆでになってしまうのだとか。

冷水に冷やしている間、他のおかずを弁当箱に盛り付けておく。
盛りつけ終えれば、冷水に冷やしておいた卵も救い上げて、水気を取る。

殻を剥き、食べやすいように包丁で切れば綺麗な色をした黄身と白身が現れた。
メインになるように盛れば完成。


勿論、私自身の弁当も忘れずに盛っておく。私のところは半熟のゆで卵。
二人分の弁当箱に蓋をして、漸く終わったと額を拭う。



「ふぅ、終わった終わった。」
「どうかしたのですか?ヒスイ=ジハード。」

「ッ!!だ・か・ら!いつも気配消して背後に立つなって言ってんでしょ!」



前にも不意打ちでされたことに、驚きと怒りをぶつけた。
だが、この男に怒りをぶつけてもひらりとかわすから殆ど意味はないだろうが。

実際に今、私が作っていた弁当の方へ目は向いている。



「おや、本当に作ってくれたのですね。」
「…一応、私から言い出したことだし。」



まるで、罰ゲームだ。と頭の中でよぎる。
しかし“言いだしっぺの法則”といってしまえばこうしなければならないだろうが。

そして、ハザマは別の方に視線が向いてポンと肩に手を置かれる。



「ん?ヒスイ。その卵、余ってますねェ。」
「え?あぁ、弁当に入りきれなかったしね。味見序でに食べようかと。」

「味見序で、って…貴女。食べてない物を盛ったのですか。」
「まぁ、焦げてはなかったし…大丈夫だよ。」



アハハ、と軽快に笑う。
実際盛った卵は焦げもなく綺麗に出来ていたから問題ないと思う。

そもそも、卵が焦げてなければ食べれるだろうとヒスイ自身がそう思っている。
文句があるなら、私に作らせるのではない。



「折角ですから、ひとつ戴きましょうか。」
「え?」



ひょいと卵を手に取り、あろうことかそのまま丸呑みしてしまったのだ。
その短い一連の行動に思わず固まった。



「ちょっと…!」
「ふむ…これも中々…。」

「それはよかったですね。二度と作ってやるか。」



作った挙句に中々だとか言うハザマにグッサリ一言。
言い捨ててはヒスイは、もうひとつの卵に手を伸ばす。

もうひとつの卵は半熟の卵で、白身は固く黄身は柔らかい。
丁度いい感じに熟されていたから、凄く美味しい。

もきゅもきゅと味わっていると、ポンとまた肩に手を置かれた。



「ちょっとヒスイさん?」
「…何。」

「それ、私にもくれません?」
「は…、え?ちょ…!」



ぐいっと肩を掴まれて、首が動くとそのまま唇に重なる。
唐突な行動に案の定ついていけず、重なって口に咥えていた卵を奪われる。



「ン…っ、ちょ…や…。」



奪われただけならいいが、そのままぬるりと舌で侵入される。
耐え切れなくてきゅっと目を瞑った。

目を瞑ればすぐに開放されたが、屈辱感がとても堪らなくイヤだった。
それなのに、この男といったら。ニヤニヤと笑みを浮かべたままだ。



「こっちは半熟ですか。コレも中々。」
「はぁ…アンタにはさっきあげたでしょうが!」



グイッと拭ってため息を吐く。
折角味見で食べてみた卵をまんまと奪われるなんて。

まぁ、そもそも罰ゲームで作ったのだが、
自分で作ったのを食べられなくなるという理由は無い。

それなのに、何故奪われるなんて!とイラ立ちでキッと睨みつける。



「いやいや、折角ヒスイさんが私のために作ってくれたのでしょう?
でしたら最後まで戴かないと、ね?」



帽子を取ってはニヤリと笑みを浮かべる。
その笑みとうっすら開いた黄色の瞳。

結局。この男のされるがままになってしまうのだろう。
そう、思えたのだった。





卵と弁当×ゲーム
(ふざけないで!私が作ってるのを勝手につまみ食いしないでよ。)
(と言っても此処の材料は私が予め用意したものですよ?)
(卵オンリーしかないのに何言ってんだ!)