何故、こうなったの。
いや、毎度の事だけど。
私は今、統制機構の支部のとある部屋にいた。
犯罪者である私にとって、この場所は最早終わりの地でもある。
いや、自ら向かったのではない。拉致られたのだ。
目の前にいる、この男の手によって。
「どうかしましたか、ヒスイさん?」
ハザマだ。
正直この男は本当にダメ。というか、この場から一刻も早く逃げたい。
色々理由があるのだが、一番おかしいと思うことは今置かれている状態が状態な為だ。
簡潔に言ってしまえば、私がこの場所にいるということは、この男にしか知られてないからなのだ。
どう考えたっておかしい。故に彼女は、不審と警戒を解除出来ずにいた。
「…あの、帰してくれませんか?」
「帰すって何処に?」
『よければ送りますよ』というこの男がなんと忌々しい事か。
そもそも、気絶した上に拉致るなんて、なんて神経してるのだ。
だけど、普通におかしい。
私自身が言うのも変だが、これでも私は元・統制機構の人間で今は犯罪者だ。
手配書に載ってしまう私がこんな場所に居て、それも武器を没収されてない。
どう考えたっておかしい。
普通なら、捉えて牢に入れるなり最悪始末するなりするはずなのに。
「アナタに話す必要はありません。」
「冷たいですねぇ。まま、今日は別に殺すとかナシにしましょう?」
そうへらへらと笑うが、前までは私を殺そうとしたくせに何を言ってんだか。
本当にこの男に対しては油断とか隙とか見せちゃダメだ、と頭の中で警鐘のようになった。
そうだ、隙なんて見せなきゃ問題ない。
それに、隙があればこんなところからすぐに逃げられるし。
色々模索しながら考えていると。
支部の一部屋に備えられていた椅子に座っていたハザマが急に立ち上がる。
「さて、と。」
「?ハザマ…一体何を?」
「そりゃ決まってますよ。貴女を追って埃を被ってしまいましたから。」
『少しお風呂に』といつものような笑みで笑いかけた。
というか、あくまで私が居るというのにそんなんでいいのか。
目を離した隙に逃げられるのよ、私。これでも元・准佐だし。
「あ。よろしかったら貴女も入ります?」
「断固としてお断りします。」
「おや、つれない。」
しゅるり、と黒いネクタイに手を掛けてそのまま外す。
いつもはきっちりと首元までボタンは留めていたから、少し乱れるその様をさり気なく見て。
「あ…。」
なんというか、いつも仕事を忠実にこなして時にその思考は危なっかしい。
そんな男が、高がそんな男がネクタイを外す仕草だけで思わず目に止まるなんて。
「おや、どうかしたんですか?ヒスイ=ジハード?」
「な…!なんでも、ないです…。」
ブン、と首を振っては視線を反らす。
だが、その直後に手が触れてくいっと戻された。
目の前には案の定ハザマがいて、それも顔を近づけていた。
(距離近いっての!)
「ふ〜ん…。おかしいですねぇ。」
「!な、何が…ですか?」
「なんでもなければこの赤い顔はなんですか?」
「…!」
頬をさり気なく触れて、その手はまるで熱を感じるためにあるように。
その手を払いたいのに、変に緊張とは違う何かの所為で上手く行動できない。
絶対変だ。絶対に変だ!と頭の中で連呼しても目の前の男は口元を歪めて笑っていた。
「か、勝手に触るなんて…!」
「ククッ、今更ですよ?ヒスイ=ジハード。私と貴女の仲じゃありませんか。」
「私はそんな仲になった覚えなんて一切ありません。」
くつくつ笑うこの男。こんな場所じゃなかったら、この状況じゃなかったら。
すぐにでもこの場からおさらば出来たのに。
だけど、唇を奪われることだけは避けたかったから。
思いっきり頭突きしましたけどね!
行動理解不能
(あだっ…もう。相変わらず乱暴ですねぇ、ヒスイ?)
(これ以上ふざけるなら直接弾丸をお見舞いする。)
(本当にツレない方ですねェ。)