雨は厄日である。2

(名前無変換夢主)


突然の大雨による、この展開。
此処は便利屋の事務所で、部屋にいるのは私と彼だけ。

濡れた体があたたまって、助かったのは、いいのだけど……。



「あ、あのさ…ニコラス…私の、服…は……?」
『洗った。乾くまで待ってろ。』

「あ…、あ……うん……。」



取りあえずシャワー入っている間に洗ってくれたのだからお礼だけは言っておいた。
流石に自分の服は今は乾くまで待つしかないため、間違えて着てしまったシャツを着るしかなかった。

それは、ニコラスのシャツ。無地のカラーで見慣れた襟付きのシャツ。
着ているシャツは腰あたりまで隠れるが、太ももは見事に晒されている。
(うぅ…こ、これは…恥ずかしい……。)


ニコラスもあの後に入れ違えにシャワーに入ったために、上半身は裸でタオルを首にかけているだけの姿。
(うぅぅ……こ、これはこれで…目に毒である………。)

乾くまで待つと言うのはいいけども、お互い結構ずぶ濡れだったし、時間はかかってしまうだろう。
それまで、外に出られないからこの階で大人しくするしかない。



「…これ…ニコラスの、シャツ……だよね…。」



もちろん丈も長いので袖の部分も勿論長い。
すらりと細身のシャツだけども、今の自分では袖は長いため、軽く遊びつつもすんと軽くシャツを嗅いでみた。
男らしい、自分にはない匂いが軽くちらついた。

にしても……。


今は部屋に一人。男と女。男はいないが、女は男の服を着ている。
偶然とはいえ、この状況を第三者が見たらどう思ってしまうんだろうか。
………いやいやいや、それはないでしょ。

ニコラスってそういった欲少なさそうだし。
ウォリックだったら確実に役得とか言って……いや、私にはそのケはないか…。
だって、こんな…アレックスさんみたいな魅力的な体してないし……。
(あぁ…なんか自分で言ってて悲しくなった。)

でも、ソレ目的で近寄る男はいないだけマシだ…と暗示をかけておこう。



「……はぁ、…ま。ニコラスがそういうことするとは思えないし……。」
「?」

「…あ、ニコラス。もう終わったの?」



そう問いかければ小さく頷いて返答された。
でも服の方はどうにもできないから乾くまで大人しくするしかなんだけど、如何せん退屈だ。
(時間もどれくらいかかるかわからないし、この後どうしようか…)

何も思いつかないし足をぱたぱたしてはそのままちょこんと隅っこに座る。
ノートは無事だったけど、今は勉強する気もしない。濡れた体には眠気も伴っていた。
雨に濡れて奪われてしまった体温は十分取り戻せたが、眠気までは取っ払うことは出来なかった。

それなのに、一瞬にして状況が変わるなんて、思いもしなかった。



「ふぁ…。」
「……おい。」

「ふぇ……、ニコラス…?……ひゃっ!?」



軽くあくびをしつつも返事をすると、ひょいと急に抱えられてはそのまま椅子に座らされる。
目の前にはじぃっとこちらを見るニコラスの姿。



「え、っと……?……ニコラス……?ど、どうした、の……?」
「………。」



何も言ってこない。わけが、わからなかった。
首を傾げても結局返事はしてくれず、更に距離を縮めるだけの展開になった。

今の自分は背もたれ付きの椅子に座っている形のために、さがろうにも背もたれで阻まれる。
それにも関わらず、ニコラスはこちらに近寄ってくる。
ほぼほぼ数センチしか離れてない今の状況に、ようやく落ち着いた平常心はまたパンク寸前だった。

―――ヤバい、これは、なんか…ヤバい。
そう慌てて止めに入ろうとするも、ニコラスの男らしい手は、指先は、こちらのちらりと見えた首筋に触れる。


今まで、ニコラスがこういったことをすることはなかった。
いや、こうされるとは思いもしなかった、が正しいであろう。

首筋に指先が触れて、そのままゆっくりと近寄って距離をゼロ距離まで縮めてくる。
この後の展開が未知数すぎて思わず目を閉じた。
不思議と、拒絶する。という反射は出なかった。

まるで、この状況を受け入れているような…そんな気がした。
あぁ、もう。どうにでもなれ。そう、結論に至った。



「……ッ……!」



……ちくり。
いや…、かぷり。いや……がぶり。そう、この痛みはその音が適切だ。
………痛み?……がぶり??
気づけば痛みは、劇的に私の感覚に大きく出た。



「……ッ、…った……いた……あだだだだだっ!!!」



あまりの痛さに思わず目を開ければ、ニコラスに首筋を思いっきり噛まれていた。
いやいや、なんで首筋を噛む?しかも思いっきり??

そんな『何で』という疑問点よりも、痛みから解放されたくてストップを必死に声かける。
…あぁ!だめだ!ニコラスには私の声が聞こえない。



「あだだだ!!ニック……ニコラス!!ストップ!!ギブ……ギブギブ!!」
「?」



この後必死になって『痛い』を連呼しながら背中をトントン叩いた。
しかし私の声ではなく、背中を叩いたことでようやく止めてくれたのだけど、当の本人は首を傾げていた。
(あぁ…強く噛まれたから涙出てきた…。)

一瞬のほんのり期待した甘いムードなんて幻で終わってしまった。
鏡を改めてみれば、首筋にはばっちり噛み痕が。


バッチリついてしまったために、自分の服が乾いても首元を露出しているために着替えれず。
お蔭さまで襟がついたニコラスのシャツを、一日着ることになってしまったのだ。





雨は厄日である。2
(ニコラス……なんで、思いっきり噛んだの…。)
〔印をつけただけだ。甘噛みのつもりだったが?〕
(へっ!?なんで甘噛み……ってか、あれは甘噛みじゃないから!)
〔?〕