ひとりの夜の後日噺

あの然り気無いアプローチを受けて、幾月が経った。
……というには日が浅すぎるけど、結局仕事が忙しすぎたことには変わりないので多忙な日々を送っている。
……だが、あのときとは違うのは。ひとりじゃなくなったことだ。


「ほら、センパイ。また一人で残業しようとしたでしょ。
あなたってひとは自分さえよければいい、って思っているでしょう?」
「……バレたか。」


淡々とパソコンを操作していたところ、いつもの調子で私に声をかけてきた。

ひとりじゃなくなったのは、隣にちょっかいを出すひとが増えたためである。
いや、ちょっかいならいつも出してたが、あのときとは違うことがある。

画面をまじまじと見ては小さく笑ってはこちらに視線を向ける。


「んー。これくらいなら、今日から始めなくてもあなたなら終わりますよね。
だから今日こそはちゃんと定時で帰ってくださいね。」
「そんなこといっておいて、最初から帰らせるくせに。ほら、無理矢理消そうとしない。」


意外にも気遣ってくれていたのだ。
(最初の頃は思わず構えてしまったがもう慣れました。)

確かに今から始めなくても間に合う案件のため、ちょうどよいところで手を止める。
目を離すと電源ボタン長押しによる強制終了をされかねないので、保存も済ませてまっとうな方法で電源を落とす。

ふぅ、と軽く息をついて帰り支度を整えれば視線を向けては軽く挨拶をしてオフィスを後にした。
…もちろん隣にはあの男もいるわけで。


「最近ちゃんと帰るようになりましたね。いいことです。」
「とかいって、最初からこれが目的だったくせに。これで仕事が遅れたら後々大変になるんですよ。」


宇佐美も仕事はできるのだ。いつもいつも定時通りに帰れているのは仕事の効率がいいから。
出来すぎる後輩に難儀を感じたこともあるが、本心さえ読み取れればなんとなくこうしたかったのだろうという意図がとれる。

それが幸いだが、でも仕事には締め切りが存在するのでそれに間に合わなければ意味がない。
こちらとしては、あまりギリギリまで寝かせるのがよくないので片付けていた。
それでも、傍目から見たら普段から切り詰めすぎらしい。


「その時はちゃんと手伝いますから。
僕だって終わらない仕事で残業するのは嫌ですから。」


あくまで忠告のつもりだったが、もしもの時は手伝うというのだから耳を疑った。
確かに手伝ってもらえるなら頼もしいことはない。
ただ、腹の底では何を考えているのかはいまだにちょっとわかっていない。

あぁ、ダメだ。ついつい仕事の話になってしまう。


「さて。仕事の話はこの辺にしておいて…」


宇佐美が私の手を握って小さく笑いかける。
最初は何事かと思って見上げると、あの意地悪する笑みを見て察した。
あぁ、今日はそのまま帰宅コースではないのかと。


「折角の週末ですから、どこかで飲みませんか?」
「……私だけ奢らせないでよ。」


軽く悪態をついて溜息をついて、少しにぎやかな夜の街にでる。
まぁ、孤独の週末にならなかっただけましか、と内心に秘めながら。

私と彼で仕事の疲れを癒すのだ。
ひとときの安らぎだとしても、孤独の夜ではないのだから。



ひとりの夜の後日噺
(そういえば、よく僕の告白がわかりましたよね。)
(もうあんなわかりにくい告白はごめんだわ。)