雨の音は嫌いだ。
その理由はたったひとつ。
あの男が必ず来るのは、雨音がする夜だから。
雨が降らないでくれと何度願っても、それを嘲笑うかのように雨がふる。
しとしとと静かに雨がアスファルトをたたく音。
その音に招かれるかのように、当然のようにその男は現れる。
「いい子に待っていたか?」
にたりと下卑た笑みを浮かべ、真っ黒な瞳がこちらを視界に映す。
あの真っ黒で一度のぞけば真っ暗な深淵が、私をすっぽりと覆うように。
私はこの男から逃れられない。
それがたとえ、自宅でも外の場所でも、私の前に必ずその男は現れる。
もちろん、体を暴くために。
触れるな、と手ひどく振って逃げようにもその男は必ず現れる。
まるで、狩人に狙われた獲物のように。
必ず追い詰めて、必ず仕留めて、必ずその男の欲のままに暴かれるのだ。
それが、どんな場所であっても。
「待ってるわけないでしょ。この人でなし。」
呪いと恨み節を込めて吐き捨てると、男は渇いた笑いを浮かべた。
そして、無理矢理腕を伸ばしては引き寄せ、壁に追い詰めては身に着けていたものをすべてはぎとる。
ぶちぶち、と布が裂ける音がして、ボタンがアスファルトにむなしく落ちて響く。
最後にお互い雨で濡れた状態で、男は耳元でこう囁いた。
「俺から逃げられると思うなよ。」
あぁ、雨音が男の言葉をいたずらにかき消していく。
その真意を知らぬまま、私はまた、雨音の中で男に暴かれるのだ。