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※ 五番隊パラレル(これこれと同じ)

とても天気の良いこと以上のニュースもない、何の変哲もない午後だった。こう天気が良くたって、堅物メガネ――惣右介の監視下にあっては好きではない机仕事はさらに倍億劫になる。なんやかんやと言い訳をしながらいつも通り邸内をうろついていたときだった。喜助がひよ里が少し前に連れて行かれたという、あの「蛆虫の巣」に俺を連れて行きたいなどと言い出したのは。

「ハァ?どういうこっちゃ」

俺は二番隊にも十二番隊にも縁もゆかりもあったような記憶がない。思いっきり顔をしかめる俺に構わず、喜助はヒラヒラと手を振って「まぁまぁ」とか適当な返事をしながらそれでもいつものヘラヘラとした笑顔を崩さない。

「平子サンしかいないんですもん。おねがいしますよォ」
「だから、なんで俺しかおらんねん」
「そうですねェ……いちばん似てる、からですかねェ?」

とりあえずこれ以上ここで聞こうとしてもろくな返事が帰ってこないことだけはわかったので、仕方なくこの胡散臭い男の誘いに乗ることにした。胡散臭いと言って跳ねのけることだってもちろんできたが、そうしなかったのは今思うと――偶然だとか不思議だとか、そういうあいまいな言葉しか見つからない。その場所についてはひよ里から話は聞いていたが特に心を痛めることもなかった。根っからの善人、なんて人種とは程遠いところに自分がいることぐらいは自覚しているつもりだった。

ひよ里に聞いていた通り、そして「蛆虫の巣」という名前の通り、そこは他からすべてが隔離された薄暗い――陽の光が入らないからだ――場所だった。喜助が襲いかかる巨体の男たちと素手で遊んでいるのを視界に入れながら、当たりに充満する淀んだ空気を吸っていると惣右介の横で書類と相手をするほうが随分とマシに思えてくる。

目に留めたのは、物珍しかったからだと思う。誰も彼も沈みきった空気を纏っているのに、それがなかった。眠そうに目を擦る少女。入隊予定の新人に同じ年頃の少年がいたことを思い出しながらその子に近づくと、途端に分かりやすく目を音がしそうなほど瞬いた。

「…もしかして、お日様のお兄さん?」
「オ、ヒサマ?」
「喜助さんがね、わたしが太陽が見たいって言ったらね、代わりに似てる人を連れてきてくれるって約束してくれたの」

俺の足元に駆け寄って、「ほんとうに日向の匂いがする」と言った笑顔。それは日向に咲く花を思い出させた。それが彼女との出会いで――俺はきっと、これから何回も思い出して笑うのだろう。そんな確信めいた何かで体が微かに震えた。胸が勝手に熱くなって、考える前に次々と口から言葉がすべりおちてゆく。そんなのははじめてだった。

「――シンジや」
「…名前、おしえてくれるの?」
「当たり前やろ。自分とこの隊長の名前くらい言えなアカン」
「えっ、え…?」
「逆もやな。ほら、名前は?」
「...えっと、――!」

響き渡る元気の良い声が、その場一帯の雰囲気を柔らかくする。たまらず抱き上げて頭を撫でた。

「よっしゃ。いい返事やんけ」

そっと抱きしめると、羽のように軽くてあったかい。子ども体温ってこういうものなのか、と実感しながら慌てふためく少女と目を合わせる。陽の光が当たればもっと煌めくんだろう、と思ったらそれが見たくてたまらなくなった。これから口にすることが簡単ではないと知っているけれど。

「決めたで。俺がこっから出したる」

これでもかと目を見開く彼女の肩越しに、少し離れたところで相変わらずの笑顔で手を振る喜助が目に入る。完全にしてやられた、と顔をしかめてやりたいのにどうしても顔は緩んでしまって表情が定まらない。悪くない気分だった。

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