体温をあげる

「浮かない顔してるのォ、本当に志波海燕に何かされたか?」
「全然、違います・・・すいません」
「気にするな。大方平子のことじゃろ」
「えっなんで」
「・・・まぁいい。平子のとこに送るのは面倒になりそうじゃし、ここでいいかの」
「・・・ぎ、技局ですかあ」
「おや、嫌いか?喜助からはよくお主の話が出るがのォ」

綺麗な黄金の瞳はニヤニヤと楽しそうに細められている。そう言われても、おもちゃよろしく(軽いものだけど)実験台にされているだけというのがほんとのところだ。浦原隊長も人が悪いなあとちょっと恨めしく思いながら四楓院隊長の後について歩く。もう夜だが技術開発局は灯りの消えている箇所なんて存在しない。ここの人たちはいつだって忙しそうにしている。

「喜助、様子を見に来てやったぞ」
「アラ、夜一サン、どうしたんスか?」
「ほれ、みやげじゃ」
「へ?」
「嬉しいっスねぇなまえサンがお土産なんて」
「・・・・・」
「そんなキツイ目線送らないでくださいよォ、ボクとなまえサンの仲じゃないですか」

全然意味わかんないです、とは言えず。はじまった隊長同士の談笑の邪魔をしないように無言でそろりそろり、後ずさると何かを踏んでしまった。次いで首にひやり、と冷たい感触。慌ててのけぞると不愉快そうなマユリの顔がわたしの顔3センチのところまで迫っていた。

「げ、踏んだのマユリだったの。てか爪当てるのやめて切れちゃう」
「切ろうと思って添えたんだヨ!不愉快な女だネ相変わらず」
「こわ・・・なにそれ引く・・・・」
「ハァ・・・ココに来たなら手伝いたまえ。ホラ十番の容器ダヨ」

研究衣を乱雑に押し付けられて有無を言わさず指示を飛ばしてくるので、仕方なしにそれに付き合う。わたしがマユリと同期入隊だからなのかなんなのか、十二番隊に書類を持っていくといつもこうなのだ。浦原隊長は隊舎にはおらずこちらに入り浸っているから、判をもらうためには足を踏み入れなければいけないし、そうすればいつも目まぐるしく行われる研究に巻き込まれてしまう。それでも手伝いはまだいいほうで、実験体にされることもままあるのでその分マユリはまだ優しい。・・・多分。

「相変わらず随分仲良しなんですね、なまえさんとマユリさん」
「そ、そうですか?・・・あ、四楓院隊長帰ってしまいました?」
「ええ、さっき」
「お礼いいそびれた・・・今度お菓子持っていこう・・・」

「ふーん・・・なまえサン、それで今日はどうしたんですか?書類は無いようっスけど」

いつもへらへらと笑っている癖に、今日に限って浦原隊長の色素の薄い瞳は真っ直ぐこちらを見て来るから参ってしまう。この人の強い瞳が少しだけ苦手だ。言い逃れはできないな、とぎゅっと瞼を閉じてから観念して開く。

「・・・えーと、平子隊長がですね、何やらわたしに言いづらそうにしてまして、」
「それで」
「怖くて、逃げ回ってる、感じです」
「なんで怖いんスか?」
「・・・い、異動というか使えなさすぎて飛ばされるんじゃないかとですね、」

「・・・ですってェ、平子サン」
「聞いてたわアホ」

気だるげな猫背、金色の歪みない長髪、切れ長の瞳。やってしまった、と咄嗟に部屋の出口に向かうもあっさり阻止される。わたしの腕を平子隊長の細くて、それでもしっかりした大きい手が掴む。まさか追ってこられているとは思いもしなかった。ひやりと冷たい汗が噴き出るのを感じる。つまりこれは、ゲームオーバーというわけですか。

-meteo-