引き寄せられる

非番、晴れの日、午後。みっつそろったこの時がいちばん好きだ。たっぷり寝て、それから遅めの朝食をとってふらふらと瀞霊廷を散歩して和菓子屋を覗いたりする何でもない休日というのはとてもいい。しばらく非日常が続いていたから特に。

と、思っていたそのときだった。

「なまえやん!なんや非番かいな!丁度ええわこっち来ィ!!!」
「ひ、ひよ里さん!?」
「リサに白ー!休憩延長すんでー!」
「ひよりんナイスー!やったあ久しぶりィなまえっち〜〜!」 
「え、いや、あの、」
「ええからアンタは早よ座りやぁ」

あっという間に店から飛び出してきて、ひよ里さんに着物の袖を引かれ店内に入ってみれば寛いだ様子の二人の副隊長の姿。どうやら三人で休憩していたらしい。二人とも信じられないスピードで注文を頼み店員さんにわたしの分のお茶を要求し、結局口を挟む間もなくわたしの前にあんみつパフェなるものと玉露のお茶が並べられた。
 
「なんか、すみません・・・!というかダメですよ!戻らないと隊長たちに怒られちゃいますよ」
「喜助のハゲなんか放っといたらええねん!」

店中に響く大きな声で言い切るひよ里さんに、そうだそうだと賛同して囃したてるリサさんと白さん。こうなったらもう止まらない。観念して三人を帰そうとするのを諦めて、口々に自隊の隊長にキツいダメだしを送るのを眺めながら少し冷めてきた玉露をすする。あ、これすごくおいしい。

「あ〜〜ホンマけったくそ悪いわぁ〜〜!!・・・ほらなまえも何か言い!」
「えっ、・・・えっ?」
「なまえっちもシンジィに不満とかあるんじゃないの〜〜?」
「副官の、なんやったっけ、変態メガネのでもええよ」
「それまんまリサやんか」

で?、で?と揃って顔を覗きこんでくるので思わずのけぞってしまう。たいちょうの、ふまん?それか、ふくたいちょう。

「な、ないですよ!」
「ええ〜うそだぁ〜〜!ゼェーッタイ嘘だよねぇ?」
「いい機会やし、全部言わせたるからな!あ、おっちゃんぜんざい追加で!」
「ほんならアタシみたらしで」
「てかてか〜〜!なまえっち今日の服か〜わ〜い〜〜!!!」

いつもより数倍、いきいきとした三人に顔がひきつるのを隠せない。これは、けっこう、大変なことになるんじゃないでしょうか。








「・・・どうすんだよこれ」
「いやあ、困りましたねぇ」
「そういいながら喜助くん、ニヤニヤしてるよ」
「だぁって京楽サン、なまえさん面白いんスもん」
「確かに、ああいうの百面相って言うんだろうねぇ」

「・・・・・・・・」

なんとかしろ、とでも言いたげに拳西の視線がビシバシと飛んでくるのを感じる。事の始まりは俺と八・九・十二番隊の隊長副隊長でぞろぞろと甘味でも、と来ていたところだった。ひよ里がいきなり店を飛び出したと思ったら非番のなまえを引っ張ってきたらしい。同じ店、衝立の奥の席にこうして隊長4人でいるものの、定期的に向こう側(主にひよ里だ)から「絶対に出てくんなよ」という圧力がかけられてるから出ることも出来ない。正直に言えば会話の内容が気になるので一応霊圧を消して聞き耳を立てている。とりあえず、俺への不満は何一つ聞こえてこなかったのでこっそり胸を撫で下ろした。聞いていると、何やらなまえは非番だからいつもの死覇装ではなく着物姿らしい。見たくないわけない。見たい。そしてなにより腹立たしいのが、通路側にいる京楽サンと喜助にはなまえの姿が見えているということだ。

「・・・なあ、俺もごっつ見たいんねんけど!!オイ喜助席替われや」
「変なコト言いますねぇ、嫌に決まってるじゃないですかぁ」
「なんやとコラ?!お前ズルいで!!」
「ああいうのがガールズトークっていうの?楽しそうだよねぇオジサンも入れてくんないかなぁ」
「オイお前ら・・・」
「あ、ちょっと、拳西くん静かに」


「じゃあさじゃあさ、なまえっちはシンジィのことどう思ってるの〜〜?」

飛び込んできた白の言葉に、思わず飲んでいた茶で蒸せた。勢いよく口から飛び出そうになる茶をどうにか気力で阻止すると喜助が「汚いっスねぇ」とか抜かしてくるのでひよ里よろしく顔面に一発入れておく。そりゃこうもなるだろう、それまで聞こえてきていたのは最近新しくできた歌酒場が安いとか飯が美味いだとかそんなことだったのだ。

「え、ええい、いきなりなんっ、、うぐっ!」
「ちょ、なまえ大丈夫か?白アホ!いきなりすぎるやろ!!」
「白玉飲んでしもたみたいやね、ほらゆっくりお茶飲み」
「ご、ごめん〜〜〜!!!」

なまえの呻き声が耳に入った瞬間に反射的に体が動いて瞬歩を使っていた。なまえの目の前に飛んでいき、体を抱えて背中をさすってやると落ち着いたようで息を漏らす。今にも飛び掛かってきそうなひよ里の殺気がうるさくて叶わないので「借りるで」とだけ言ってとりあえずなまえを抱えたまんま店を飛び出した。状況がわかっていないだろう彼女が喜助たちが言っていたとおり百面相をしているのを見て自然と口角があがる。

「もう大丈夫か?」
「ひ、ひらこ、たいちょ?・・・え、ええええ?ど、どういう?」
「別にィ、通ったらなんやなまえがおったから」
「あ、そ、そうだったんですかぁ」

目を白黒させるなまえは同じ店に俺たちがいたことには全く気付いてなかったようだ。ほっと胸を撫で下ろすのを見て何だか自分の胸まで疼いた。

「・・・その着物似合ってるやん」
「・・・あ、ありがとうございます」

照れたように目を逸らして口をわななかせた後、頬を染めて目尻をにじませて微笑むその仕草に、引力で引き寄せられるように視線を外すことができなかった。胸はまだ疼いている。薄々気付いてはいたがこうなっては、彼女のことが好きなのだと認めざるを得ない。白の俺をどう思っているか、という言葉が耳の中を反響して離れなかった。


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