ちょっぴりのスリル
クリスマス休暇以上に人がいないせいで、だだっぴろい大広間で朝ごはんを食べているだけなのになんだか落ち着かない。周りの先生たちから教職用の席で食べたらと勧められたが、わたしもセブルスも結局夏休みのあいだはスリザリンテーブルのいつもの席で食べることにした。
「・・・夏休みかぁ」
「そういえば、今年は日本に帰るのか?」
「あーもう学割効かないしなぁ。それより他にどっかバカンスでも行こうよ」
「・・・・・」
「あ、いま面倒とおもったでしょ」
「夏は熱い」
「じゃあ涼しそうなところ〜あ、スイスとかは?」
そういえばレギュラスがプロチームのクディッチ見に行きたいって言ってたし、今年はなんといったってそこでワールドカップがあるのだ。これを見逃さない手はない。というわけでセブルスの招致にやっ気になっていたときだった。
「お前にバカンスなんてあると思ったのか?」
そう言いながらわたしたちの向かいに座ったのは相変わらず悪者顔のリドル先生だった。そんな、嘘でしょ!わたしが悲鳴をあげると、綺麗な顔は更に楽しそうになる。
「優秀で勤勉だったセブルスとは違うんだ。当たり前だろう」
「ええー!殺生な!モラトリアムも追い込みですよ!」
「なら9月から使える見込みのある人材になってから言え。そういうわけで、コレだ」
手渡されたのは地獄への招待状、もとい。
「な、なんですかこのめちゃくちゃ長いメモは・・・」
「もちろんこの夏の課題だ。そこにあるやつを全部買って来い。全部詰め込んでやる」
「ヒィッ」
「ああ、それから。セブルスに一緒に行って貰えよ」
「・・・なんで?」
「お前は、すぐにどこかに行くからな」
浅いため息と一緒に吐き出された言葉にハテナマークを浮かべることしかできない。わたし、リドル先生と出掛けたことなんてないのに。
...
「っていうさっきのアレ、舐められてたのかなわたし!!?ねぇセブ、聞いてる?」
「そんだけでかい声で叫ばれちゃ聞きたくなくても聞こえる」
「だって〜!!」
「それより、これで全部なんだろうな」
ダイアゴン横丁、フローリシュ・アンド・ブロッツ。付き添いできてくれたセブルスに抱えてもらった本の山は、ついにセブルスの頭を越えた。何冊あるんだろうかなんて考えたくもない。『実践!体で覚える闇の魔法に対する防衛術(鍛錬キット付属)』がリストの一番下であることを確認して頷くとセブルスはよろよろとレジカウンターに向かって進路を変えた。
「ふくろう便使えるかなあ」
「大丈夫だろ。家具だってあんなに運べるんだ」
「・・・掃除のこと、まだ根に持ってんの?」
「スリザリンだからな」
会計をする間、セブルスは隣の店(魔法薬のお店の中でも、なかなかマニアックな類のやつ)を見てくるというのでじゃあアイスクリームパーラーで待ち合わせしようということになった。
ふくろう便は従量制だった。試しに測ってみるともう何冊か本が買えそうな値段する。こういうのも経費でいいんだよねと内心ひやひやしながら領収書を店員さんにお願いする。セブルスに聞いておけばよかった。
「お届け先はどちらに致しますか?」
少し悩んだあと、わたしはリドル先生の研究室の場所を告げた。またわたしの部屋が羽まみれになるのはごめんだ。窓から雪崩込むふくろうの群れに思いっきり眉をしかめる先生を想像して、わたしのささやかな復讐心は満たされる。
そこまでは、至極順調だったのだけれど。
「ど、どこだここは・・・」
わたしはどうやら、絶対にアイスクリーム屋なんてなさそうな怪しげで胡散臭い通りに迷い込んでしまったらしい。