ハローオレンジサンセット

「セブルス〜、わたしのブラシってどこ入れたんだっけ」
「・・・・・小さい方のトランク」
「あっそっか〜、あれ?じゃあドライヤーとかどこだっけ」
「・・・洗面所のものは、全てまとめて入れただろ」
「ワーオ!ずっとなくしてたと思ってた手鏡まである!セブルスすごっ!」


「口より手を動かせ」も「探す前に何でも僕に聞くのをやめろ」も「なんで僕がお前の手伝いを」も、それらを全てを詰め込んだ溜息も7年間で通算何回目だろう。余りにも馬鹿馬鹿しいので全て飲み込むことにした。朝食を食べてから荷物をとりあえず片してやって、今は教師用の私室になる部屋で荷解きをしているリツは昨日のしょぼくれ顏はどこへやら。うるさすぎる、と言い換えていいほど上機嫌だ。

自分のそれもそこそこに、彼女の荷解きを、なんで僕が手伝ってやってるかといえば彼女がフクロウ通信販売で家具だのなんだのを買い込んでいたのがついさっき発覚したからに他ならない。家具、家具、家具、おびただしいフクロウの群れ。もう思い出したくもなかった。

とにもかくにも、このまま荷物ともゴミとも区別できない部屋に彼女を住まわせておくわけにはいかない。それはリツのためにとかそんなことではなく、いずれ僕の部屋に入り浸るようになるのが目に見えるからだ。学生時代、毎年荷物を全て引き上げるはずの寮の寝室を3ヶ月ほどで汚くしてしまうと住処を変えるように彼女は専ら談話室に就寝ギリギリまで入り浸りはじめるのが常だった。僕とレギュラスは彼女と同室の女生徒には憐れみさえ覚えたものだ。

「ああっ!待ってこのマンガ20巻だけどっかいってる!うわあ〜もう嫌〜」

特等席にするのだとこれまた通信販売で運ばせたチェアーに身体を沈めて手足をジタバタさせはじめるリツは完全に作業を諦めたらしい。こうなった彼女は本当に面倒くさい。本人はこれを神経質と呼べとのたまうが神経質な奴はマンガをごちゃまぜに積み上げたりしないしそもそも無くさないということを理解していない。

「ねえセブルスー、ね!昨日みたいなチャチャッと片付けて、なーんて」
「自分でやれ!」
「えっえぇ〜?だってだって!リドル先生が昼までに終わらせろってさ〜終わるわけなくない?てかセブルスも昨日はあんなにやってくれたのにさ〜」

何その心変わりィ〜?秋の空リスペクトー?とかいうふざけた追い打ちに耐えかねて、手にしていたマグカップを少々強い力で真新しい棚に並べてしまったのは許して欲しい。息を低く吐き出して、説教の体制に入るとリツは慌てて僕の名前を甘えた声で呼ぶ。バカものめ。もう遅い、と口を開いたその瞬間だった。

「・・・入るぞ。もうそろそろ昼食だが、終わったのか?」

ノックもそこそこに、勢いよく開けられた扉から姿を現したリドル教授にリツはヒィッと悲鳴をあげ、その直後マズイと思ったのかそれを飲み込もうとしたらしい呻き声をあげた。教授のほうはといえばこの部屋の悲惨な状況を黙って、というよりは言葉を失っているように見えた。信じられないでしょう、僕もそう思ってるんですよ。


「・・・あ、あーリドル先生!ええと、ご飯!ご飯食べ行きましょう!ね!」
「・・・・・」
「・・・・えっとぉ、あの、」



「昼飯は抜きだ!ばかものめ!」




「うわ〜んもう夜ご飯だよ〜お腹空いて倒れる〜」
「そんなことよりお前のトランクはどうなってるんだ!!!ガラクタだらけだ、それも出しても出しても終わらないじゃないか!」
「イヤーー!!セブやめてえて!それはいいから!!わたしがやるから!」
「・・・セブルス、片付ける必要はないぞ。消してやれ」
「・・・それもそうですね。・・・では、エバネスk」
「ばっ!ばかばか!フィニート・インカンターテム! フィニート・インカンターテム!」



-meteo-