あえなくフィッシング

「なぜ呼ばれたかはもう分かっているだろうな」
「先生って周りに生徒いなくなるとキャラ変わりますよね」
「・・・・・おい」
「若作り頑張ってるみたいですしまぁ確かに髪下ろしてると20代そこそこに見えますけどね」
「・・・話を聞け」
「でもルシウス先輩のお父さんと同い年でしょ?ということは」
「いいから黙れ」

執務室に入るなり尊大な態度で足を組みソファに腰を下ろし、額を隠していた髪をかけあげる先生はさっきまでとは別人だ。はたしてこの姿を知る生徒はどれほどいるんだろうか、知った上で黄色い声をあげる女子生徒がいるとしたらわたしは尊敬する。だってこのひとどう見てもラスボスだもん。

「お前も気付いているだろうが、進路の件だ」
「まずご飯」
「そんな呑気な態度でいいとでも、」
「ご飯食べさせてくれるって言いましたよね」

いまいましそうにチッと舌を鳴らしたあと、先生の杖が軽く振られて目の前にサンドイッチと紅茶が現れる。もうここまで来たら諦めて怒られるしかないと思った途端、空腹感が押し寄せてきた。こうなればやけ食いである。

「卒業まであと一ヶ月もないが未だ進路は決まらず」
「・・・はぁ」
「NEWTもあれ程言ったのにさんざんだったらしいな」
「情報早いですねー、午後受けたばっかですよ」
「試験監督をしていた。お前すぐ寝ただろう。・・・それでだ、お前はどうするつもりなんだ?」
「えー、いや、あー、」
「だろうと思っていた」
「いや!なんか、あ、三本の箒で、バイト、しようかなー、とか」
「ロスメルタも迷惑だろう。やめておけ」
「・・・・・じゃあ、ないです」
「まあ私の知ったことではないと、言いたいところだがしかしこれでも慈悲深い質でな」
「・・・・・(うるせー)」

ソファにもたれかかって、見せつけるようにその長い足を組み替えてこちらを見て不適に笑う先生はこのシックな部屋と相まって悔しいほど様になっている、のだが湧き上がるこの殴りたいという気持ちはなんなんだろう。言ってしまえば、すごいムカつく。

「で、なんか紹介してくれるんですか」
「喜べ、お前をあー、そうだなよく言えば・・・助手にしてやろう。

その間の中になにか不穏な空気を感じたのは気のせいではないはずだ。

「で、どうする?まさか断ったりはしないだろう」

一時のテンションに身を任せて、断りますけど?と言ってやりたいのはやまやまだが、冷静に考えてこれを断るのはあまり良い判断とは言えない。ホグワーツで働くとなれば住居の心配はしなくていいし助手であれば教授などと比べれば楽な仕事だろう。あとホグワーツって倒産とかしないし。ザッツオーライ。リドル先生のしもべになるっていうのは、うん。この際おいておくとして。

「・・・どうぞよろしくオネガイシマス」
「まぁそうだろうな。元々拒否権もなかったが」

なんだか騙されているような気がしなくもないけれどとりあえず、就職決まりました。


「・・・ところで、なんで助手にしてくれたんですか」
「それはもちろん、スリザリンに就職浪人なんぞいたらグリフィンドールに笑われるからな」
「あ、わたしの能力を買って、とかではなく」
「ああ、お前の能力を買って、とかではなく」
「・・・・・」


(12.04.02/15.09.30)



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