プリズム・プリズム
あっという間にすぎた七年間だった。今日で卒業するというのに、実感が全くないのだ。ぼんやりと、湖でマーメイドと大イカ達がパフォーマンスを披露してくれているのをなんだか他人事みたいに見ていたりして。
「・・・ねぇ、セブルスは実感湧いてる?」
「・・・実を言うと全くない」
「だよねぇ、わたしも。組み分け帽子を被ってから、そんなに経ってないと思うんだけどなぁ」
「ああ・・・あったな。お前はグリフィンドールだとばっかり思っていたのに」
当たり前だけれど周りに飛び交うのは英語ばかりで、ましてや日本人なんて一人もいない不安すぎる入学式で声を掛けてくれたのがセブルスだった。ジャパニーズか?と無愛想ながら心配してくれたセブルスと、どうにか同じ寮になることで必死だったのを思い出す。そういえば組み分け帽子には酷いことを言ってしまったような気がする。だってあの帽子がグリフィンドールをやけに勧めてきたから、まぁしょうがない。
「おい、もう終わったぞ」
「え、」
慌てて見渡すと、スピーチだとかそういうものは全て終わったようで、周りは誰も彼も帽子を投げあげて卒業を祝福していた。歓声や指笛が飛び交う騒がしさに、あっけにとられてそれを見上げていると誰かに腕を引っ張られる。
「おいリツ、何ボーッとしてんだよ!元気か?」
「・・・なんだ、シリウスか。相変わらず騒がしいね」
「シリウスは暑苦しいからどきなよ。・・・大丈夫?」
「リーマス!ありがとう、助かった」
「どういたしまして。あ、休暇には僕らのとこに遊びにきてね。待ってるから」
「ん?僕らって?」
「俺とリーマスで、ゾンコを買い取って悪戯専門店をやるんだ!最高にクールだろ!」
「え、リーマスも?」
「うん、まぁ仕方なくね。お店なんて、シリウスだけじゃ不安だし」
絶対顔見せに来いよとわたしの髪をぐちゃぐちゃにして、シリウス達が嵐のように去って行くと、やっとセブルスがわたしのそばに近寄ってくる。そんなに過剰反応しなくてもなぁ、とも思うのだが現状じゃあ難しいか。もっと時間が経って、いつか普通に接せる日が来るといいのだけれど。
「これもう解散な感じ?なのかな」
「卒業生用のホグワーツ特急がもうそろそろ出るはずだ、と前にも言ったぞ。また聞いてなかったのか」
「ごめんごめん。でもわたしそれ乗らないしさー」
「は?」
「へ?」
「・・・僕も、そうなんだが」
「・・・え、それって、」
「リツ先輩!!セブルス先輩!!」
レギュラスにしては珍しい鋭い声に、思わずセブルスと顔を見合わせた。随分走っていたのか息も切らしているようで、俯いて膝に手を置いて呼吸を整えるのを取り敢えず見守る。
「レギュラス、どうしたの?」
「どうしたの、じゃありませんよなんなんですかふたりとも!僕に何も言わずに特急に乗るつもりですか」
「え、いや、乗らな」
「というかなんで僕だけ年違うんですかね?二人で卒業するなんてそんなのズルいじゃないですか」
「おい取り敢えず落ち着けレギュラス、」
「いっつもそうですよ僕ばっかり!おいてかれてばっか」
「ん?もうこれわたしたちの話?」
「た、たぶん」
「ちょっと僕のはなし聞いてます?」
「「すいませんでした」」
それから何といえばいいのか、説教というか、高圧的な別れを惜しむ言葉をセブルスと浴びる。まぁレギュラスの長い長い言葉をまとめると、寂しくなるってことなんだと思う。多分。僕リツ先輩より落ち着きがあるとか大人なのにとか聞こえた気がするけど気のせい。
「・・・あ、実感湧いたかも」
「・・・僕も、なんとなく」
もうこのかわいい後輩と毎日だらだらしていれらるのも、卒業したらできなくなってしまうんだなぁ、と思ったら、卒業するのが途端に寂しくなってくる。明日からはシリウスやリーマス、リリーやジェームズ達とも気軽に会えなくなるんだった。そうだ、万物は流転する。わかってはいるけれど。
「まぁ、わたし来年もホグワーツいるけどね。防衛術の助手だから」
「は?なんですかそれ!」
「おい、それは僕も今聞いたぞ。まぁ僕もリツと似たようなもんだが」
「セブルス先輩も?どういうことですか!?」
「・・・来年から魔法薬学の教授になる」
「何それ!わたし聞いてないよセブルス!」
「お前が言わないからだ!僕はずっとお前が進路の話をしないから心配していたのに」
「あれ?言わなかった?っけ?」
「・・・なんだ、あんまり変わらないじゃないですか」
さっきあんなにまくしたてたことが恥ずかしいのか、俯き気味のレギュラスの呟きが卒業式にふさわしい、抜けるような青空に溶けていった。