最初からやり直し

あの日から、何度も考えた。

君に会ったら何て声を掛けよう。
どんな風に触れようか。
どんな話をしようか。

呆れる程並べ立てていたそれは、笑えるくらい意味なんて全く為さなかった。

《…今度こそ、本当に君に殺されてしまいそうだね》

すまないが、保険を掛けさせて貰った。
あの男が淡々とそう言ったすぐ後に聞こえた声に、ひゅっ、と息が詰まる。
忘れる訳が無い。

「…杜、舞白…」

その名前を口に出すのは随分久しぶりな気がした。

大嫌いで、それなのに、愛して止まない女。

まさか。
嘘だ。
彼女は死んだ。
いや、そもそも部下は赤井が連れているのは女性ではなく少女と言った。
ぐるぐると景色が回る。
ああ、頭が痛い。

「まさか、吉野雪が、お前なのか…」

独り言のように呟けば、向こう側で困ったような声が、君は相変わらず察しが良くて嫌になる、と溢す。
何だこれは…。
理解の範疇を超えている。
トリックや変装なんて次元じゃない。
大人が、子どもの姿になるだなんて。

「…意味が、わからない…」
《私もだよ…》

ぎゅっ、と固く目を閉じる。
心臓が、動く感触が妙に生々しい。
耳を塞いでしまいたくなるくらい、騒ぎ立てる。
指先から感覚が鈍くなって、融けて消えてしまいそうだ。

「…生きてるのか」

本当に…。
また、いなくなるんじゃないのか。
次々溢れ出そうな言葉は飲み込む。
そう思う感情の出処は憎しみであって欲しいと思った。

《君が、呼び戻したんだよ》
「っ…」

唇の温度だとか、柔らかい産毛が頬をくすぐる感触とか。
泣きそうに笑うチョコレートを溶かした様な甘い瞳だとか。
映画を巻き戻して再生するみたいに、奥底からずるずると引き出される。
ぎゅっとスマホを握り締めて、下唇を噛む。
下らない言葉遊び。
まるで、あの日のやり直しだ。
だけど、ただそれだけで泣きそうになったなんて、言ってやらない。

「、…良かった…、っ」

漸く搾り出したのは何日も砂漠を彷徨った旅人みたいな、渇いた酷く弱々しい、情けない声だった。
向こう側で小さく息を呑んだのがわかった。
機械を隔てたそこに、存在している。
息をしている。
瞬きをしている。

遠い世界に旅をしていたのは君だったのか、それとも俺だったのか。

《、またね。安室さん…》

ほら。
そうやって。
だから俺はお前が嫌いだ。
たった一言で簡単に俺を人間にする。
弱くする。



僕が許しの乞い方を知らない様に、君は許し方を知らないんだ。

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