Hello,hello
元気ですか。
何処にいますか。
何を思ってますか。
私は、今もまだ貴方の中に欠片ほどでも残っていますか。
予想通り、警視庁にはさほど情報は上がって無さそうだ。
しばらくカタカタとキーを叩いて手を止める。
「これ…」
資料に添付されてるのは爆破の衝撃でぐにゃりと変形した金属性の扉と、焼き付いた指紋。
その下には毛利小五郎の指紋と一致と書かれている。
「コナン君!」
一体、何が起こってる…?
すぐさまコナン君と毛利探偵事務所へ向かう。
事務所前にはパトカーや黒塗りの車が停められていて、見るからに物々しい。
「蘭姉ちゃん!」
「コナン君、雪ちゃん…」
不安そうな顔をする蘭ちゃんは私とコナン君を見て少しだけ表情を緩める。
事務所内は警視庁と書かれた段ボールがあちこちに置かれ、棚のファイルや机のPCが次々詰められていく。
「…雪。あの人」
「…うん。公安の人だね」
コナン君が視線だけをやった先にいるのは確か風見さんと言った筈。
零の部下だ。
怪我をしてるという事は爆破現場に居たのだろう。
ブブッと震えるスマホを取り出せば、"ポアロにいろ。16時半には行く。"と短い文が届いている。
出勤出来るくらいには無事らしい。
小さく息を吐いてスマホをポケットに仕舞う。
推理は私の得意分野じゃない。
ここに居る意味はないか。
そう結論付けるとコナン君に調べたい事があるからポアロにいる、と告げ、事務所を出る。
「雪ちゃん。いらっしゃい」
いつも通り出迎えてくれた梓さんは安室さん今日は5時からだよと当たり前の様に教えてくれる。
"吉野雪は安室透の死んでしまった片想いの人にそっくりな女の子"という盛り込み過ぎな設定は良くも悪くも活きていると思う。
本人曰くまだ杜舞白が死んだことになってた間はそういう意味で言っていたらしいけれど、杜舞白だとバレてしまった今となっては私に必要以上に構ってもロリコンだと怪しまれないだけじゃなく、私を近くに置いておきたい意図もあるのだろう。
心配と監視が入り混じってるのは複雑なところだが。
私をパソコンオタクな子供と思ってるらしい梓さんはオレンジジュースのグラスをコースターの上に置くと、ごゆっくり、と小さく笑って他のお客さんのテーブルへ向かう。
「な…、」
16時半を回ろうかという頃にお店の奥で梓さんの小さな悲鳴が上がる。
それと同時にははは、と困ったような安室さんの声も聞こえる。
ほっとして顔を上げれば、頬に大きなガーゼを貼って他も傷だらけな安室さんに眉を潜める。
険しい顔をする私に苦笑して私の眉間を人差し指で押す。
気づかない内に皺になっていたらしい。
「見た目程深い傷じゃないから大丈夫だよ」
安室さんは宥めるようにぽんぽんと私の頭に軽く手を乗せる。
「さっき…」
探偵事務所に前に会った風見さんって人がいた、と切り出そうとすると同時に外が騒がしくなる。
探偵さんの声だ。
ソファーに膝立ちになって外を覗こうと身を乗り出すとそれを遮る様にシャッとブラインドが下ろされる。
「ちょ、…」
非難がましく見上げれば昏い空色が私を見下ろす。
けたたましく鳴ったサイレンの音はあっという間に遠ざかる。
「…」
「…君、何をしようとしてるの?」
「何って?」
「何で探偵さんを逮捕させたの」
何の事かな。
らちがあかないとソファーを降りて荷物を手にドアノブに手をかける。
「そのドアを開けて、一歩でもポアロの外に出たら…」
「…公安の管理下で君を監禁する」
「は、?何で…」
その話は後でね。仕事があるから。
そう言って安室さんは箒とちりとりを手に出て行く。
「…」
彼等(公安)は何を考えている。
十中八九毛利小五郎に連なる証拠は捏造だろう。
真犯人か、もしくは、公安の。
私の知る限り探偵さんはハッキングやクラッキングどころか普段使いすら怪しいパソコン音痴だ。
それを仮にも弟子を名乗る彼が知らない筈が無い。
それを考えると証拠を捏造したのは公安で間違い無い。
だけど、だとしたら彼を嵌める理由がわからない。
思考を遮る様にカラン、カランと音が鳴ってドアが開く。
「ー…それから、彼女にこれ以上関わらないでくれるかな」
「くっ…、」
「、コナ…!」
苦い顔のコナン君を追いかけようと踏み出した足は3歩も進まない内に止まる。
「…」
入り口に立ち塞がる男は思い出したかとばかりに見下ろしてくる。
監禁、なんて正気の沙汰とは思えないが、この男にはそれを実行出来る力がある。
更に言えば、私は既に口実を与えてしまっている。
「まさか、君がそんな顔をするとは思わなかったな」
おかしそうに、だけど冷たい声が降る。
「僕の知らない間に随分毛利先生に懐いてたんだね」
いつもの安室透の顔で、吉野雪に対する態度も笑顔も声音も、いつもと変わらないのに、今は知らない人みたいだ。
それとも、コナン君にかな。
探りですら無い。
こんなのはただの脅しだ。
ぎりっと奥歯を噛み締める。
「…この件には関わるな。彼にも」
ーいいな。
ハロー、ハロー。
届いていますか。
聴こえていますか。
君は誰ですか。
4.28 P.M.
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