愛をふりまく人
『君の命を、僕に頂戴?』
君の力を良いことの為に使わせて欲しい。
最初に交わしたそのやり取りが、始まりで、全てだ。
ヒーローかヒールなら、私は間違いなく後者だ。
正義感も薄いし、事勿れ主義だし、そもそも正義感のある人間がハッキングなんてしないだろう。
私の命が欲しいと言ったあの人は、私の首に犯罪者という首輪を嵌め、思い出という鎖を付けた。
どうせならもっと武骨で冷たくて、愛着なんてこれっぽっちも湧かないくらい酷いものだったら良かった。
死んでもいいって、本気で思った。
だから道具として使い古して、死なせて欲しかったのに。
私は両親からの愛情への応え方もわからない欠陥品だったから。
『君は優しいね』
酷い人だ。
君は知りもしないだろう。
私が何で未だ春を迎えられず、融けて消えられないのか。
全部、君のせいだ。
君が私に教えた。
愛する事も、哀しむ事も、憎む事も。
そんな余計な荷物だけを私に残して遠くに行ってしまうものだから、私は未だに君との記憶を手放せないでいる。
優しい鎖は、本当に何処までも君だ。
「…れい…」
孤独な人だと思う。
味方でありたいと思う。
でもそれを叶えてあげられないのもわかってる。
私は私の首に繋がる鎖を壊せない。
多分この先も。
彼は私を不実だと思っているだろう。
それでも寄り添いたいと思うのは私のエゴだ。
博士の家に泊まるね!と言えばあっさり了承は得られた。
自宅でもよかったけれど、コナン君から博士か私か、哀ちゃんに手がかりなり進捗なり何かしらの連絡があるならひとところにいた方がお互いに手間が省ける。
昨夜コナン君から電話で聞いた話だと、妃弁護士が代わりの弁護人を探してくれてるらしいが難航してるそうだ。
被疑者が有名人かつ、弁護が難しい公安事件。
その上でもしかしたら、公安が何かしらの圧力をかけてるのかもしれない。
どの道簡単には行かないだろう。
カチッとマウスを動かして押収されたPCに入ってたサミット会場の予定表や見取り図を一枚ずつ見ていく。
確か警視庁の報告書では原因は高圧ケーブルに細工をした事による爆発だとか。
指紋は転写が不可能じゃないとはいえ証拠能力は高い。
それに加えて見取り図や予定表もあるとなれば送検には十分だろう。
「他に何か…」
ある筈だ。
降谷零がこんな事をするのだ。
何か確信があってやってるに違いない。
ふと、スクロールしてた手を止める。
「ガス栓をネットで操作できる…?」
前にポアロでトラブルがあった時に聞いた、確かIoT家電と言ったか。
ポアロのIoTポットはタクシーの無線電波に影響を受けて予定外に動いてた。
同じなら、このガス栓も何かしら外部からの影響を受けて作動してもおかしくない。
報告書だとエッジ・オブ・オーシャンにネットが開通するのが28日。
きっと偶然じゃない。
「やっぱり」
ガス栓の接続サーバーを調べれば、爆発直前にアクセスされた形跡がある。
犯人はガス栓を操作してガスを充満させてガス爆発を起こした。
後はアクセス元がわかれば、犯人がわかる。
「ねぇ、ちょっと」
「ん?何?」
開けっ放しだったドアをノックして顔を出した哀ちゃんは振り返った私に顔すごいわよ、と言ってから、爆発物の特定出来そうよ、と告げる。
連絡をもらってたらしく飛び込む様にやって来たコナン君と博士と哀ちゃんを囲む様に画面を覗き込む。
博士のドローンで撮影したサミット会場の残骸から照合して出て来たのはIoT圧力ポットだった。
また、IoT…。
調べる必要があるか…。
「何だよっ!爆弾じゃなかったのかよっ!」
声を荒げるコナン君を博士が嗜める。
「どうしたの…?」
「…小五郎のおっちゃんが、送検されたっ」
「「「…!」」」
どうやら彼は私達に猶予はくれないらしい。
零…。
君がくれた愛が、私を今も生かしている。
4.29 A.M.
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