心の片隅に住まう

「…」


なまえは屋敷の廊下に立てかけられている、“R”のイニシャルの入った海を眺める女性が描かれた絵を静かに眺める。
その瞳は何処か悲しげだ。

「あ。なまえちゃん」

「?」

「準備、もうほとんど終わったよ」

「そっか。ありがとう。タクト君達が手伝ってくれたお陰で、思ってたより早く終わったよ」

「ははっ。そんな大した事してないよ」

「もう暗いし、夕食食べてく?スガタやワコも一緒に」

「え。良いの?」

「手伝ってくれたお礼。バイト代+夕食」

「おぉー!」

目を輝かせていたタクトはふと思い出した様になまえに目を向ける。

「そういえば、明日来るお客さんって、なまえちゃんの友達なんだってね」

「リンに聞いたの?」

「うん。僕達はてっきり恋人が来るのかと思ってたよ」

「恋人ではないよ…」

なまえはほんの僅かに目を細める。

「元婚約者なの」

「え…?」

「明日来るお客さん。私の婚約者だった人なんだ」

思わぬ答えにタクトは目を丸くする。

「えぇーっ!?」

「そ、そんな驚く事…?」

「だ、だだだってなまえちゃんそういう話1回もしなかったし…あれ、元…?」

「うん、元。何年か前に、ちょっとあってね。向こうから婚約を解消したの」

「そう…」

「まぁ、それでも今は良き友人って奴で仲良くやってるんだけどね」

「元婚約者が、友人…」

1人複雑そうな顔をするタクトになまえは小さく笑みを零す。

「昔の事は私も彼もとっくに割り切ってるし。此処にくるのは1友人としてだから。
そんな複雑に考えなくても良いよ?」

ほら、戻ろ、となまえはタクトに背を向け歩き出す。


「―大切な人なんだね」

「え?」

なまえは足を止め、タクトを振り返る。

「なまえちゃん、その人の事話す時、嬉しそうな顔してるよ」

なまえは少し目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべる。

「…うん。大切な人だよ…凄くね」


―彼がいなかったら、今の私はいなかった…。

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