崩した砂の城

「―やぁ」


夕焼けに染まる砂浜に座っていたヤナは、近づいてくる人物に声をかける。

「1人?」

近づいてくる人物―スガタはヤナに尋ねる。

「うん。もう少し海を見ていたくて、なまえ達には先に帰って貰ったんだ」

イリヤはそこら辺にいると思うけどね、とヤナは言う。

「…貴方が、なまえの婚約者だった人?」

不意にスガタが尋ねる。

「そうだよ」

ヤナは小さく頷く。

「そっちから解消したって聞いたけど…?」

「あぁ…この足のせいでね」

「どうして聞いても…?」

「事故だ。お陰でなまえとの婚約も解消されちゃって。正直荒れたよ。
でも、今は結構満足してる。面倒な後継者争いもしないで済んだし、夏休みにこうしてなまえに会いに来る事も出来るしね」

ヤナはにっと笑う。

「…なまえの事、好きだった?」

ヤナは夕日から視線を外して、真っ直ぐにスガタを見上げる。

「今でも好きだよ」

「そう…」

「でも、俺と一緒にいたらなまえは多分幸せにはなれないと思ったから一緒になる未来は手放した」

「え…?」

「―…君と彼女はよく似てるね。話してみて改めて思った」

「!…僕達の事を知ってるのか…?」

ヤナは僅かに目を細め、小さく息を付くと、両腕を後ろについて、上体を僅かに後ろに傾ける。


「…知ってるよ。君と彼女は、血を分けた姉弟だ」

「…」

スガタは警戒心を剥き出しにした眼差しでヤナを見る。

「…残念ながら、この島の地下遺跡の事はもう“秘密”じゃない。
まだほんの一部だけど、世界中の企業や国の上層部はもう随分前からその情報を掴んでいる」

ヤナは気にした様子もなく言うと、砂に手を入れ、盛るとペタペタと軽く叩いて形作る。

「…貴方も、サイバディを狙っているのか」

「どうだと思う?」

「…質問しているのは僕だ」

ヤナはくすっと小さく笑ってごめんね、と言う。

「“狙っている”って表現が正しいのかはよく分からないけど、“そういうもの”に多少関わっているのは事実だよ」

スガタの表情が険しい物になる。

「…なまえは知ってるのか?」

「さぁ…どうだろう?あの子は何でも知っている様で知らないし、知らない様で多くの事を知ってる。
もしかしたら俺が気付いてないだけで、もう知ってるのかもしれないね」

「なまえを傷つける事はしないよ。誓って」

そう言って微笑むヤナに、スガタは僅かに目を伏せる。

「…」

1人になった砂浜でヤナは黙々と砂の城を作り上げる。

「―…俺は別に疑われても構わないけど、君だけはどんな事があってもなまえを信じてあげなきゃダメだよ。シンドウ・スガタ君」
―君の為に、あの子は此処にいるんだから。

ヤナは綺麗に出来上がった砂の城を静かに眺める。
その瞳は酷く冷たかった。

「…ふん」

ヤナは砂の城を崩す。

「…イリヤ。そろそろ帰ろう」

「―はい」

いつの間にかヤナの背後に控えていたイリヤは微かに頷くと、ヤナに手を貸す。

「壊してよかったのですか…?」

「あぁ、あれか…」

ヤナはちらっとさっき自分が壊した砂の城を振り返る。

「綺麗に出来あがったのでは…?」

イリヤの言葉に、ヤナはふっと嘲笑的な笑みを浮かべる。


「良いよ。もういらない…」

―そうだろ?なまえ…。

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