切り取られた世界

廊下の壁にかけられた絵を眺めながら、タクトはふぅ、と小さく息を吐く。
時間のせいもあるだろうが、さっきまでの喧騒が嘘の様に静かだ。

「―今日はとんだ災難だったね」

「ヤナさん?」

ヤナはタクトの少し手前で車椅子を止める。

「全部、燃えてしまったね…」

「でも、スガタのお陰で何とか助かりました。1番大事な物は、とりあえず無事だったし」

タクトはそっとポケットに触れる。

「恋人からの贈り物?」

「ははっ…違いますけど、大切な物なんです」

「そう…なら、良かったね。君と大事な物が無事で」

「はい。そういえば、ヤナさん何してたんです?もう皆寝てるんじゃないですか?」

「暇だったから探検」

ニヤリと子供の様な笑みを浮かべるヤナに、タクトは小さく笑う。

「君は?」

「絵を、見てたんです」

タクトは再び壁の絵に目を向ける。

「へぇ。凄く綺麗な絵だね…まるで、時間を切り取ったみたいだ」

ヤナは絵の右下の“R”のサインに目を向けると、僅かに目を細める。

「絵は描いた人の“世界”を映した物だって言うけど、これを描いた人はどんな世界を見ていたんだろう…?」

「描いた人の、世界…」

タクトは絵を見つめる。

「俺には描けないな」

ヤナは苦笑混じりに言う。


「絵は苦手なんだ。昔から…」

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