“ノイ”
夕陽が島を照らす中、ヤナはイリヤの手を借りて、公園の1番高い場所へと足を運んだ。
後1時間もすれば本土行きのフェリーが出る。
しんみりと別れを惜しむのは自分も彼女も好みじゃない。
もしかしたら、“あの日”を思い出すから、とは、思っていても口にはしない。
「…」
ヤナは静かに夕陽色に染まる海を眺める。
穏やかな波の音を耳に入れながら、どうせなら昼間に来れば良かったな、とふと思う。
―そうすればあの子の青が見れたのに…。
そう思った瞬間に、夕陽色の海への興味はほとんど失せていた。
「―此処は、この島で1番夕陽が綺麗に見える場所なんだ」
声をかけてきた青年に、ほんの少しの時間だけ視線を向けると、また海を見る。
「そう…道理で」
「君は夕陽に染まる海はあまり好きじゃないらしい。そうだろう?」
ヤナの声があまりに無感情だったせいか、青年はくすくす、と笑いながら言う。
「青い海も綺麗で魅力的だけど、夕陽に染まる海にも、同じ位魅力がある」
青年はそう言って指で額を作ると、その中に夕陽に染まる海を収める。
ヤナは青年を横目に見ながら、口を開く。
「―その世界には、“あの子”はいない」
「あの子は今も灰色の世界を彷徨ってる。だから、君の“世界”にあの子はいないよ」
「―ミヤビ・レイジ」
青年―ヘッドは驚く様子もなくヤナを見る。
「けれど、その世界を色づけたら、彼女の世界は“俺”になる」
「…なまえをどうするつもり?」
「―夢を見るんだ。彼女の望む鮮やかな星空の世界で、俺と彼女は永遠の夢を見る」
ヤナはふふっ、と小さく笑う。
「だったら早くなまえの世界を色付けてあげないとね…」
「―時間が経ったら、先に遠くへ行ってしまうかもしれない」
ヤナはそう言うと、イリヤの手を借りて立ち上がる。
「もう行くよ。船が出るんだ」
「君に会えて良かった。ミヤビ・レイジ」
去っていくヤナの後ろ姿を眺めながら、ヘッドは笑みを浮かべると、指で作った額にその後ろ姿を収める。
「―君が本当の“ノイ”か」
―なまえの心を運ぶ、“方舟”。
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