夢
「―なまえ様、お見えになりました」
日曜日。
分家本邸の書斎でぼんやりと頬杖をついていたなまえに、リンが声をかける。
「…そ。通して」
「はい」
「―いらっしゃい。ミセス・ワタナベ。それに、シモーヌちゃん」
なまえはリンに案内されて部屋に入ってきた2人を出迎える。
「こんにちは、マナセさん」
「こんにちは」
「休日にごめんなさいね。今日って、アゲマキさんのお誕生日なんでしょう?
電話した時に言って下されば良かったのに」
「良いよ。丁度、断る口実探してたし」
「どうして?親友のお誕生日なのに」
「親友の恋の邪魔はしたくありませんので」
なまえの言葉にカナコはほんの僅かに哀しげな顔をする。
「あぁ…そうね…」
「…それで?わざわざ私に会って話したい事って?お仕事の話?それとも―」
なまえは僅かに目を細める。
「“計画”の先行きが不安になってきた?」
「…貴女はどう考えているのかしら?グラウクローネ」
「強いて言うなら、遅れていた計画が進んでくれてありがたい、かな?」
なまえの言葉にカナコは眉を顰める。
「…貴女、自分が何を言ってるか、分かってるの?」
なまえは表情を変える事なく、カナコを見る。
「君の考えはわかってるよ。
マドカやコウ、私達バニシングエージのメンバーがこのまま“外”に出る事を危惧してる」
「…貴女達の言動は危険過ぎるわ。万が一外に出たりでもしたら…」
なまえは口端を上げる。
「―それでも、第3フェーズになった今、シルシを持たない君達に出来る事なんて、何も無い」
「っ…」
「だから君達は日死の巫女が見つかる前に、さっさとタウバーンを倒しておくべきだったんだよ」
カナコを見るなまえの目は冷ややかだ。
「…どの道、君達にはもう2つしか選択肢は無いんだ。
大人しく“旅立ちの日”の訪れを待つか―」
「―ツナシ・タクトを信じて、縋るか」
「…」
「それでも、“旅立ちの日”は訪れる」
なまえは静かに呟く。
「…貴女は、“旅立ちの日”に何を望んでいるの?」
「…永い永い、夢の始まりだよ」
話は終わりだね、と告げ、なまえは部屋を出る。
「―今日は久しぶりに来なかったね」
自分の部屋に戻ってきたヘッドは、カウチに横になるなまえの隣に腰掛ける。
「親友の誕生日位は、大人しくしていよーかと思ってね」
「なまえは意外と律儀だね」
けど、そんな所も俺は嫌いじゃ無いよ、となまえの髪を指に巻きつけて弄びながらヘッドは言う。
「意外とは余計。それに人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死ぬんだよ…?」
ヘッドはそれって俺の事かな?と小さく笑う。
「誰の恋路邪魔したの、君…」
「…さぁ。もうとっくに忘れたよ。そんな事」
なまえはそう、と大して興味なさげに言う。
「君は、サイバディにどんな夢を見る…?」
ヘッドに問いかけ、なまえは右手を伸ばして、天井に翳す。
無機質な天井は、まるで自分の世界の様だ。
ヘッドは左手を伸ばすと、翳したなまえの手に重ね、指を絡める様に軽く握る。
「―俺が見るのは君と見る、幸せな夢だよ。なまえ」
「…しあわせな、夢…」
「―あぁ」
ヘッドはなまえの髪を一撫でし、上体を傾けるとなまえを押し倒す。
ぼんやりとしたなまえの目にゆるりと笑みを浮かべるとその唇に口付ける。
「ん…」
なまえは頬を撫でる指の感触を感じながら、ゆっくりと目を閉じる。
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