彼女の胸に欠けた星

―1人の少女がいた。


少女は暗い暗い海の底の世界に住んでいた。
ある時、少女は好奇心と憧れから、掟を破り、海の上に出る。
始めて見る外の世界に少女は胸を躍らせる。

そこへ、一隻の巨大な船がやってきた。
王様の乗る、大きな青い船だった。
少女を見た途端、王様は家来に声を張り上げる。

“あの娘を今すぐ捕まえろ!”

王様は少女を捕らえ、お城の小さな檻の中に鎖で繋いだ。

“王様、どうかお願いです!私を此処から自由にして下さい!”

少女は一生懸命懇願するが、王様は頑なに耳を貸そうとはしなかった。
少女は故郷を忘れてしまわないように、毎日の様に歌を歌った。
それは海の底の世界の子守歌だった。

少女が王様に捕らえられてからどれだけの月日が流れただろう。
ある日、少女の檻の前に1人の少年が現れた。

少年は世界を旅する『風』だった。

“いつも此処から聞こえる君の歌声を聞いていたよ。
可哀想に、あの王様に捕まってしまったんだね”

“あの王様は何故か私を自由にはしてくれない…私は何もしていないのに…”

“王様が君を閉じ込めているのは、君が特別な力を持っているからさ”


“―君には、王様の船を止める力があるんだ”

“王様のあの巨大な青い船は王様にしか動かせない。
けれど、君にはそれを止める特別な力がある。
だから王様は君を閉じ込めた”

“君もまた、特別な命の輝きを持った子なんだ…”

その日から風は毎日の様に少女の下に足を運んだ。
いつしか、少女は孤独ではなくなった。

だが、ある日風が少女に言った。

“君にお別れをいわなきゃならない”

風は新しい季節の訪れを世界中に告げなければならなかった。

“君は僕の1番の友達だ。
だから、最後に君の願いを叶えてあげる。

君を、此処から自由にしてあげるよ”

少女は驚きに目を見開いた。

“この檻には特別な鍵がかけられてる。
その鍵は、君が持ってる『星』だ”

風の言葉に少女は躊躇った。
何故なら、海の底の世界で、『星』とは『心臓』の事だったからだ。
だが、少女は自由の為に『星』を手放す。

少女が手放した『星』は、光の欠片となって空を飾る。

風は檻から自由になった少女を海へと運ぶ。

“さぁ、君はもう自由だ。
僕達はもう会えないけれど、あの星が僕達の友情を繋いでくれる。
だから、僕達は永遠に友達だ”

そうして風は旅立ち、少女もまた、懐かしい海の底の世界へと旅立った。


そして、その銀河には、星が永久に消える事の無い、眩い光を放ち続けていた。


「おぉ…!」

パチパチパチと拍手の音と感嘆の声に、なまえは入り口に目を向ける。

「タクト君?」

「凄かったね、今の」

なまえは苦笑を浮かべ、タンッ…と舞台から下りる。

「いつから見てたの?声かけてくれたら良かったのに…」

「邪魔しちゃ悪いかなぁと思って。ちなみに、ほとんど最初から見てました!」

「そんな前から居たんだ…何か恥ずかしいな…」

なまえは居心地悪そうに頬を掻く。

「けど、びっくりしたよ。忘れ物取りに部室来たら、なまえちゃんが芝居してるんだから。
演劇部に戻る気になった?」

「タクト君のキスの相手役に立候補しようかな?」

「へ!?」

「む。何だ、その反応は。タクト君は、私じゃ嫌?」

「い…嫌って訳じゃ無いけど…ほら、その…」

「―っていうのは嘘で、衣装の打ち合わせで、サリナ部長に呼ばれて来たの」

「う、嘘…?」

「あははっ。嘘に決まってんじゃーん。タクト君単純だねぇ」

「なまえちゃんってそーいうトコ、スガタと似てるよね…」

「そりゃあ、一応双子ですから」

ガラッと扉が開き、サリナが顔を出す。

「―なまえ、待たせたね。あれ?タクト君もいたの?」

「部長!まぁ、偶然…」

サリナはふぅんと声を漏らす。

「あ。じゃあ、僕はもう帰ります。部長、なまえちゃん、また明日」

「ん。お疲れ」


「また明日ね。タクト君」

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