迷子の漕ぎ手
「ふあぁ…」
授業もいつも通り終わり、1人帰路につきながらなまえは欠伸を噛み殺す。
「ぅあー…寝ても寝ても眠い…」
―帰ったら少し寝るか。
秋の日射しに照らされながら、なまえはぼんやりと思う。
「はっ…はっ…はっ…!」
剣道場の前を通りかかると、聞こえた声に、ふと足を止めると、進行方向を変える。
「はっ…はっ…!」
剣道場で1人竹刀を振っていた人物―タカシは、黙ってこちらを見ている視線に気付いたのか、竹刀を下ろし、入り口を見る。
「…何か、用ですか?」
警戒するような固い声音にもなまえは大して反応する事なくにこにこと笑みを浮かべ、手を振る。
「声聞こえたから、誰かなーと思って」
「…そうですか」
袖で汗を拭うタカシを見ながら、なまえは僅かに目を細める。
「―帰りたい?」
「え…?」
「バニシングエージを辞めて、おとな銀行に」
タカシは更に表情を固くしてなまえを見ると、ぐっ、と拳を握り締める。
「…貴女達のやり方は異常だ」
幾ら何でも危険過ぎる…、と呟くタカシに、なまえは表情を変える事なく、すぐ横の壁に立てかけてあった竹刀を取ると、剣道場に上がる。
タカシと対峙しながら、なまえはくす、と小さく笑う。
「流石に、ウィンドウスターやニードルスター程命知らずなつもりはないけどね」
「まぁ、君からしたら皆一緒か」
「…貴女は…」
「ん?」
「僕には、貴女は寧ろ、あの2人よりも命知らずに見えます」
タカシの言葉になまえはにっ、と笑みを深める。
それはグラウクローネの時に見せる勝ち誇った笑みというよりは、タカシの言葉に満足したとでも言いたげな笑みだった。
「君って、結構人見てるよね」
今までそんな事私に言ったの、ヘッド位だよ、と言うなまえに、タカシは僅かに困惑の色を浮かべる。
「―欲しいものがある。その為には、何を失う事になっても躊躇わないよ」
「命すら、も…?」
「そうだよ―君の欲しいものは何?」
「…!」
「子供みたいに待ってるだけじゃ、欲しいものは手に入らないよ。本当に欲しいものなんか特にね―」
なまえは竹刀をスッ、と振り上げる。
「っ…!?」
タカシは喉元に突き付けられた竹刀に目を見開く。
「君が本当に欲しい居場所は何処?」
「…」
「―居たい場所は自分で決めなきゃね。バンカー?」
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