半透明の水溜り
「―なまえ?」
放課後、1人の教室でぼんやりと外を眺めていたなまえは、ドアの音と声にはっとして振り返る。
「ワコ…」
教室に入ってきたワコは、##NAME1##の前の席の椅子に座る。
「最近多いね。ぼーっとしてるの」
「そう、かな…?」
余計な心配をかけまいとする思考は、無意識のうちに笑みを浮かべる。
「もしかして、恋煩い、とか?」
思ってもみなかった質問になまえは少し目を丸くしてからぷっ、と吹き出す。
「ワコまでルリみたいな事言ってー」
「だって…」
ワコは少し表情に影を落とす。
「私には、話せない事…?」
「…うん。話せないかな」
表情が沈むワコを映す蜂蜜色の瞳が優しげに細められる。
「だって、話したら、きっとワコは解決するまで私と一緒にいるだろうから」
「あっ、当たり前じゃないっ。親友なんだからっ」
心外だ、とでも言いたげなワコに、なまえは小さく笑う。
「そう思ってくれるだけで十分だよ。それに―」
なまえは再び窓の外に目を向ける。
明日に迫った学園祭の最後の下準備に、放課後だというのに校庭や中庭は賑やかだ。
「今はまだ、答えを見つけるときじゃないんだと思う…」
「え?」
「だから、しばらくは抱えとくの」
ワコは変ななまえ、と呆れたように笑う。
笑う度に長い黄金色の髪が揺れる。
見慣れないせいか、いつもよりもワコを大人びて見せた。
「ワコ。長い髪も結構似合うね」
なまえは手を伸ばすと、指先に軽く髪の毛を巻きつける。
やはりウィッグなだけあってワコ本人の髪質とは違うが、色を合わせたお陰か、良い感じに馴染んでいる。
「そうかな。髪って昔からあんまり伸ばした事無いから変な感じ…」
ワコは少しくすぐったそうに身じろぐ。
「似合ってるよ」
「ありがとう」
「明日だね、本番」
「あー!緊張するなぁー!」
ワコは天井を仰ぎながら言う。
「キスシーンが?」
「なっ…ちーがーう!」
何処となく血色の良くなったワコの頬を見ながら、なまえは小さく笑う。
「冗談だって。そんな怒らないでよ」
―いっそ、全部ばらして嫌われてしまえば楽なのに…。
そうする事が出来ないでいるのは、私の弱さだね…。
―ねぇ、ワコ。私達の関係ってさ、雨が降った後の水溜りみたいにどんどん水かさを増していってるけど、上から覗いたら、その水溜りの色は…。
きっと、少し濁った、半透明なんだろうね…。
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