ハッピーエンド

「―素晴らしい劇だったね」


渡り廊下の手摺に凭れて下を覗いていたヘッドは振り返る。
なまえは少しだけ表情を緩めて微笑む。

「そうだね」

キャスト的にもストーリー的にも興味あるだろうとは思っていたが、予想以上に気に入った様だ。
なまえ自身、あのエンディングは良かったと思う。
ヘッドの隣りに立つと、同じ様に階下を覗きこむ。
賑わいは昼に比べてややおさまっているものの、生徒や客で賑わっている。

「なまえ」

「ん?」

ヘッドはにこっと微笑むと、なまえの手を取り、歩きだす。

「ヘッ…レイジ?」

なまえは少し目を丸くしてヘッドを見る。

「何だい?」

「いや、何だいじゃなくて…何処行くの?」

「何処行こうか?あぁ、そうだ、君の教室見てみたいな」

ヘッドは探険を始める子供の様な表情を浮かべると、行こう、となまえの手を引いて再び歩き出す。

「何か機嫌良いね?」

「凄く気分が良いんだ。
良い劇も見れたし、制服姿のなまえと一緒にいれるしね」

本気なのか冗談なのかわからないが、なまえはそれを追及しようとはせず、手を引かれるまま、ヘッドの隣りを歩く。


「―この席の生徒は羨ましいな。1日中、ずっとなまえを見てられるんだから」

ヘッドはなまえの隣りの席に座ると、頬杖をついて、なまえを見る。

「タクト君だよ、そこ」

ヘッドは微笑んだまま、何かを含んだ様に僅かに目を細める。

「…羨ましいな」

「君ってさ、タクト君のコト、口で言う程嫌ってないでしょ?」

なまえは同じ様に頬杖をついてヘッドを見る。ヘッドはん?と小さく返す。

「違う?」

「どうかな」

ヘッドはいつもの様に掴みどころの無い笑みを浮かべる。

「けど、なまえが俺にそんな事聞くの、珍しいね。もしかして、ヤキモチやいてるのかな?」

そうなら嬉しいな、と言うヘッドになまえは一瞬目を丸くして、それから小さく笑うと、そうだって言ったら?と言う。

「時々、君とタクト君と、ソラさんの“繋がり”が、凄く、羨ましいよ…トキオ」

ヘッドはソラと俺の、繋がり?と小さく首を傾げる。
その仕草があまりにも無邪気で、何処か子供を思わせた。
それが何だかおかしくてなまえは小さく笑う。

「俺が愛しているのは、欲しいと思うのはなまえだけだよ」

ヘッドはなまえの髪に指を通す。

「この世界で、なまえだけが俺の銀河を照らしてくれる永遠の星だ」

―永遠の星、か…。

「寂しいね。銀河に1人ぼっちは」

ヘッドはくすっ、と小さく笑うと、髪を梳いていた手をそのまま肩に滑らせ、抱き寄せる。

「だから、俺がずっと一緒にいるよ。なまえも俺も、寂しくない様に―」

ヘッドは囁くように目を閉じて、と言う。
なまえはゆっくりと目を閉じる。


「―愛しているよ、なまえ」

ヘッドは優しく微笑むとなまえにキスをする。

「―ホントなら送ってあげたいんだけど、これからちょっと用があるんだ。気をつけて帰るんだよ」

そう言って軽く頭を撫でると、ヘッドはまたねと言って去って行く。


「…猫みたい」

なまえはヘッドを見送ってから、自分も教室を出る。

「―君は、綺羅星で何をする?」

「…」

なまえは足を止め、振り返る。
視線の先にいたのは舞台衣装のままのサリナだった。
肩にはいつもの様に副部長を乗せている。

「マイアンのドライバーは、君だね?なまえ」

なまえは困った様に小さく笑う。

「どうしたんですか?サリナ部長。急に…」


「―君は、マイアンのシルシを持っている」

サリナはなまえから目を逸らさずに言う。

「“エントロピープル”、か…」

なまえは小さく笑う。

「わかっている筈だ。マイアンの力は、ドライバーの心を壊す。
このまま力を使い続ければ君は…」


「―私は壊れない」

なまえはゆるぎない覚悟の籠った瞳でサリナを見る。

「“旅立ちの日”が訪れるまで。絶対に」

「何がそこまで君を突き動かす…?」

なまえは答えを返さず目を伏せる。

「物語の結末は人によって違う。この物語も同じです」

「なまえ…!」


「―このまま力を使い続けたら君も“ヨウ”と同じ様に、1人ぼっちになってしまう」

サリナではない、少年の様な声に、背を向けたまま足を止める。

「…彼女は、1人じゃない」

微かに聞きとれる位の声で呟き、なまえは振り返る事なく去って行く。


―ヨウは、1人ぼっちなんかじゃ、ない…。

そして、私も…。

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