生まれて初めて好きになった女の子へ
「―まるで世界恐慌でも始まるかの様だ。商人は目敏い」
レオン・ワタナベは何処か嘲笑う様に呟く。
薄暗い部屋の中で変動する株価を示すモニターだけが光源となっている。
少し間を空けた椅子に座っていたヤナは頬杖をついて、同じ様に忙しく変動を続ける株価を静かに眺める。
「…臆病の間違いでしょう?」
ヤナはポツリと呟く。
―あの子はきっと、最後の行動に出る。
「…行こう。イリヤ」
「―はい」
「…待ちなさい。ノイ」
ヤナは振り向きはしなかったが、車椅子を止める。
「…まだ俺を引き止める理由があるんですか?ムッシュー?」
「貴方が俺を傍に置きたがるのは、俺が彼女に近しいから。それだけでしょう」
マイアンと呼ばれる危険なサイバディを持つ者。
その存在を知りながら、なおかつ利用できる財力と知性、そして野心を持ちわせているヤナをレオン・ワタナベは危険視し、社会勉強で補佐という名目の元、手元に置いた。
だがそれは無意味な事だ。
何故なら、ヤナにはなまえを利用するつもりは全くないのだから―。
だが彼の側に身を置く事でヤナにはメリットがあった。
なまえのいる綺羅星の情報を掴めるし、余計な情報をシャットアウトして彼女を守る事も出来る。
だがそれももう終わりだ。
全ては終わりに向かっている。
もう自分に出来る事はない。
「それに、名目だけとはいえ、これでも貴方の補佐の役目は充分に果たしたつもりです」
軽く振り返ったヤナは口許に微笑を浮かべる。
「失礼します。ムッシュー」
―此処から先、俺がすべきなのは、ただ見守るだけ。
それが、初めて好きなったあの子に出来る唯一の事だから。
―君は知らないだろうね、なまえ。
君の為なら、残酷なお伽話だって、俺は幸せな結末(ハッピーエンド)だって心の底から信じられるんだよ。
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