水底の棺
「…」
こつ、こつ、と静かな洞窟の中に靴の音が響く。
「―…そろそろ来るかなって思ってたよ」
ぴちゃん、ぴちゃん、という水の音に混じって、洞窟の中になまえの落ち着いた声が響く。
スガタははっ、と振り返る。
なまえの蜂蜜色の瞳に、スガタが映る。
「…なまえ」
スガタの瞳に困惑の色が宿る。
何かに引き寄せられる様にこの場所に来た。
生まれてからずっとこの島に住んでいたのに、こんな場所は知らない―。
「此所には、君と私しか入れない」
「…此処は何だ」
「地下遺跡の1つ。
“シンドウ・ヨウ”と、歴代のマイアンのスタ-ドライバ-の“柩”なんだって」
なまえは洞窟の中を見渡すように言う。
“シンドウ・ヨウ”。
その名前をスガタも知っている。
記録に残るマイアンの、最初のドライバー。
「だが此処にサイバディは…」
「無いよ。言ったでしょ?“柩”なんだって」
なまえの胸元のシルシが淡い光を放つと同時に、スガタの胸元のシルシも淡い光を放つ。
「―此処に眠ってるの。あの人達の“想い”が」
「…」
「…何でマイアンのドライバ-が特に危険視されるか、知ってる?」
スガタはいや、と短く答える。
「マイアンのドライバ-は、強制的にアプリボワゼさせられるからだよ」
「!…」
「王や巫女、戦士のシルシを持つ者は、自分の意思でアプリボワゼするけど、マイアンのドライバ-だけは、シルシを持つ者の身体がアプリボワゼに耐えられるとサイバディが判断した時、強制的にアプリボワゼさせられる。
本人の意思に関係無く」
―ザメクと同等の強大な力を持ちながら、ザメクよりも制御の利かない、危険なサイバディ。
スガタは大きく目を見開く。
「!…君は、いつ…」
「…4年前、だよ」
なまえは静かに答える。
スガタは思わず息をのむ。
ザメクと初めてアプリボワゼして深い眠りについていた時に見た記憶―あれを、あんなものを、彼女は何年も前に知っていたのだ。
『―スガタ』
顔はよく見えなかったが、自分と同じ海を想わせる長い青い髪の少女―。
『すまない…すまない…ヨウ…お前を、守ってやれなかった…っ』
そして、自分の数年後を想わせる青年―。
夢やお伽話というには、あまりにも悲しくて、切ない―おぞましいともいえる“記憶”…。
スガタはぎゅっ、と拳を握り締める。
「…僕や、シンドウ家を、恨んで、復讐する為に、綺羅星に入ったのか?」
それはずっと聞きたくて、永遠に聞きたく無かった問いだった。
―知ってしまえば、もう後には戻れない。
けれど、知らなければいけない。
ザメクのシルシを持つ者として。
何より、彼女を大切に想う者として…。
これ以上、見ないふりはできない―したくないから。
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