“世界はね…”

―漸クダ…―。


凪いだ世界が、まるでそこが心臓だといいたげにドクンッ、と大きく脈打つ。

『『…!?』』

―檻ハ、破壊サレタ。我ヲ縛ルモノハ、モウ無イ…。

脈打つ度に湖に波紋が広がる。

―我ハ、自由ダ。

低い、地の底から響くような声が頭の中に響く。
その瞬間、頭に沢山の映像が入って来る。

『っぁ!?ぐっ…ぅっ…!』

隣を見れば同じようにスガタも頭を抱え、痛みに顔を歪めている。
走馬灯の様に脳裏を走り抜ける光景はマイアンの記憶であり、ザメクの記憶であり、なまえの記憶であり、スガタの記憶だった。

―これ…っ…あの、時み、たいっ…。

身体に纏わりつく様な闇が2人を引き離す。

『なまえ…!くっ…ぅっ!』

『っ…スガ、タ…ッ!』

スガタに手を延ばすが、距離は広がり、頭の痛みは増すばかりだ。

『ス、ガ…タ…ッ』

ダメだとわかっているのに意識が遠のく。
何かに奪われそうになる。
尚も襲いかかる激しい痛みになまえは耐えきれずにぎゅっ、と目を閉じる。
底の見えない落とし穴に落ちる様に身体はゆらゆらと闇の中を落ちる。

―落ちる…墜ちる…堕ちる…。


〈―…は…―た…〉

スガタじゃない、女の人の声が微かに聞こえた。

―こ、え…。


〈―そして夜空には、少女が持っていたこの世界でただ1つの星が暗闇で永久に消える事の無い眩い光を放っていた〉

鈴を転がした様な少女の声と、ジャラ…、ジャラ…、と金属がこすれる鈍い音に、なまえはゆっくりと目を開ける。
この光景に見覚えがある。
あの日、最後に見た夢―マイアンに残るシンドウ・ヨウの記憶だ。

〈おしまい〉

〈…この話は、これで終わりなのか?〉

冷たい床に腰を下ろして片膝を立て、格子に背を凭れて話に耳を傾けていた青色の髪の青年が静かに問う。

〈どうして?スガタは面白くなかった?〉

ヨウは気にした様子もなく、ただ淡々とした声音で問う。

〈いや…ただ…―〉

〈寂しい終わり方だなって、思っただけだ…〉

スガタは息を吐く様に答える。

〈どうして寂しいの?〉

〈え?〉

スガタは意外そうな声を上げ、凭れていた背を起こして振り返る。
格子のすぐ向こうに、ヨウが膝をついてこちらを見ていた。

〈寂しくないよ〉

伸び放題の青い髪の間から覗く蜂蜜色のガラス玉の様な大きな瞳がすぅ、と細められる。

〈だってね―〉


〈                   〉

ヨウの言葉にスガタは驚いた様に固まってから、口許に小さく笑みを浮かべる。
ふわっ、と両頬に温もりを感じたかと思うと、いつの間にか格子もスガタも消え、ヨウが目の前に立っていた。

【…シンドウ、ヨウ…】

伸び放題の前髪に隠れた顔は少しやつれている様だが、自分とよく似ている。


〈世界はね、寂しいだけじゃ、ないんだよ…〉

なまえは少しだけ目を丸くしてから、ヨウの手に自分の手を重ねる。
これはただの記憶で、残像で、幻だとわかっているのに、温もりを感じた気がした。

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