出逢い
声が聞こえた。
今までとは見慣れない景色というものは、わくわくするが、少し不安な様な、そんな気分にさせる。
島に着いた翌日、ナマエは新品の制服に袖を通し、学校へと向かう。
離島なだけあって、この島にある高校は自分が通う南十字学園のみらしい。
「(そういえば…)」
この島に向かうフェリーの中に昨日出逢った少年―タクトの姿はなかったが、どうしたのだろうか、とふと疑問が頭をかすめる。
昨日の最終便は自分が乗った便だったが、万が一乗り遅れたのだとしても今朝の出発便に乗れば入学式には間に合う筈か、とそう深く考えず、思考を打ち切る。
「あ…」
道路わきに見えた海に、思わず足を止める。
本土の海とは違う、透き通っていて、太陽に反射してきらきらと青く輝いている。
ナマエはにんまり、と楽しそうに口許に笑みを浮かべる。
―今までにない景色だ。
本土にはない、自然の色、景色―それがこの島にはある。
今感じているこの気持ちを残す様にこの景色を写真に収めたいが、そうすると入学式に遅れてしまう。
悔しい気持ちもあるが、これが日常の風景になるのだと思うと、それも少しは和らぐ。
―これからは、此処から見える沢山の綺麗な世界が、自分の生きる世界になるのだ。
校門を潜り、ホタルは少しそわそわと周りを見る。
当然の事なのだが、知らない人間ばかりで、少々落ち着かない。
校門を入ってすぐの場所にある生徒達が集まっている掲示板の前で足を止め、自分の名前を探す。
「アケノ・ナマエ、アケノ・ナマエ…あ。あった」
「っと、あ、ごめんね」
とん、と肩に軽く衝撃があたり、ナマエはぶつかってきた人物に大丈夫、と答えて隣に目を向ける。
蜂蜜色の短い髪に、大きな瞳の少女は少し申し訳なさそうな顔をしている。
「貴女、この島の子じゃないよね?編入生?」
「へ?あ、うん。本土から来たの」
よくわかったね、と少し驚いたように言えば、少女は小さく笑って、小さい島だからね、と返す。
「あ、でも本土から来たならタクト君と同じだ」
「へ?」
「ほら、あの赤い髪の…」
少女が指さす先にいた赤い髪の少年に、ナマエは目を丸くする。
「あ」
「え?あ…君は」
お互いを指さして目を丸くする2人に、少女はきょとん、として2人を見る。
「え。2人って知り合いだったの?」
「まぁ、一応…かな?」
「港で会ったんだ」
結局僕はフェリーには乗り遅れちゃったんだけど、と苦笑しながら頭をかくタクトに、ナマエは思い出したように、そうだよ、と声を漏らす。
「どうやって来たの?私が乗ったフェリーにいなかったけど。今朝一番のフェリーで来たの?」
ナマエの質問に、タクトはますますバツが悪そうに苦笑する。
「あー…それが、ですね…」
「?」
「うー、ん…泳いで…来ました」
「…はぁ!?」
ナマエはぱちり、ぱちり、と目を瞬いてから思いっきり声を上げる。
予想外も予想外すぎる。
「泳いで!?本土から此処まで!?しかもあの時間から!?」
フェリーの出航時間でも夕暮れだった。
それ以降という事はつまり夜の海を泳いで来たのだ。
「よく、生きてたね…」
「はは…全く…死にかけたんだけど…ワコとスガタに助けて貰って、何とか命拾いしたよ」
タクトは、で、この子が僕の命の恩人、と手で紹介する。
「あ。あたし、アゲマキ・ワコ」
「アケノ・ナマエです」
「あっちがシンドウ・スガタ。もう1人の恩人」
タクトは奥にいる青い髪の少年を指さす。
少年はこちらに気づいた様に数歩歩み寄ると、ワコやタクトからナマエに目を向け、よろしく、と短く言う。
綺麗な顔した子だなぁ、と思いながら、ナマエはよろしく、と軽く頭を下げて返す。
「そういえば、ナマエちゃん、何組だった?」
「2組」
「そうなの?あたし達もなの。皆同じクラスだね。これからよろしくね!」
「よろしく!」
にこっ、と笑うワコに、つられるようにナマエも笑う。
取りあえず幸先は良いようだ。
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