星屑にして空に散りばめよう

ヘッドはリビングの机の上のメモに軽く目を通し、ぱさっ、と閉じると机の端にやる。

「…」

メモは彼が雇った世話人が書き記したものだ。
本来ならそんなものは必要ないが、なまえは放っておくと食事もまともに取らない事もある。
まるで人間としての生きる機能を放棄している様に。
故に世話をする人間を雇い、食事だけは面倒をみさせている。

「なまえ、ただいま」

「…」

ベッドの上にぽつん、と座り込んで窓の外を見ていたなまえは僅かに首を動かして振り返り、ヘッドを一瞥し、また窓の外へと目を向ける。
ヘッドはベッドの端に腰掛け、髪を撫でる。
なまえは少しだけ目を細める。
髪を撫でてやると見せるその表情は、いつものぼんやりした表情とは少し違っていて、まるで猫の様だと思う。
感情を失なってしまってから、こんな些細や表情や仕草の変化に敏感になってしまった。
だが、だからこそその変化がより愛しく感じる。

「―あぁ、そうだ」

ヘッドは思い出したように顔を上げ、語りだす。

「今日、面白いお伽話を聞かせて貰ったんだ。
気多の巫女、サカナちゃんって呼んでるんだけど、その子が創った話で、まだまだ最初だけなんだけど、面白そうなんだよ」

ヘッドは藍色の髪を一房手に取り、緩く編みながら、かの少女のお伽話を思い返す。


「―魚の惑星にいる、サムって名前の漁師の少年が、ある女の子に恋をしたんだ」

そして少年は、その少女と2人、眩い銀河の世界に旅立つ事を夢見た。

なまえに語り聞かせながら、この物語の続きはどうなるのか、とわくわくしている自分に、ヘッドは子供の様だな、と口許に自嘲気味な笑みを浮かべる。

「銀河の、世界…」

ぽつり、と零したなまえに、一度瞬きをしてから顔を覗き込む。
その瞳はやはり変わらず窓の外の夜空を見つめていた。
色の無い瞳に映る夜空の星々は、まるで消えてしまった彼女の感情の欠片のようだった。
ヘッドは夜空の星々に目を向ける。
溶けそうな熱を孕んだ眼差しに、希望の欠片の様な星屑を映して。


―この物語がハッピーエンドなら、俺達の物語も、幸せな結末で終われそうな、そんな気がするんだ。

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