エデンの林檎
まるで鏡のように君を映した様な星の瞬く空が好きだった。
遠く離れていても、ほんの微かにでもそこに彼女の存在を感じられただけで、飢えた心は満たされた。
―だけど、そんなものは仮初でしかないのだと、あの時、わかった。
あの浜辺で、今にも泣き出しそうな顔でくしゃりと笑った彼女を見た瞬間、わかってしまった…。
手放したくない、と。
欲しくて、焦がれて、自分でもこんな強烈な想いを今までどうやって抑え込んできたのか不思議なくらいの、強くていっそ醜いとすら思えるほどの、渇いた心。
君を想わせるものは全て愛おしくて、特別で、君を映した様な星空さえも、ガラスケースに閉じ込めて、他の誰の目にも触れさせたくない、なんて、願うほどに…―。
「―それで、イカ刺しサムは少女とどんな秘密を持ったんだい?」
ヘッドはいつものようにカウチに横になって鳥籠の中の少女―気多の巫女に尋ねる。
「イカを食べたの…」
「魚の惑星ではイカは悪魔の遣い。決して口にしてはいけないのに2人は、2人でイカを食べた」
気多の巫女は静かに語る。
「イカ刺しサムって言う位だから、刺身で食べたのかなぁ…?」
ヘッドは気だるげに呟く。
「けれど、秘密を共有した事で2人の絆は一層深まった」
「人生という冒険は続く―」
今日は此処でおしまいか、と残念そうに零して頭の下に枕代わりに手を置き、暗い天井を見上げて目を細める。
「秘密は距離を近づけて、絆を強くする、か…」
無機質な暗い天井は、星のない夜空の様で、嫌いだ。
いっそガラス張りにしようか、と初めてではない結論に辿り着くが、すぐに止めようと思いなおす。
星を見てると、愛おしいのに、時々、どうしようもなく憎らしくなる。
―何故あの子はいないのに、星(お前)はそこにいるんだ…?
そう思うと、もう、あの頃とは違うのだと実感させられる。
星を見てるだけで満たされたあの頃には、もう戻れない…。
「アダムとイヴは禁断の果実を食べて、罪を背負って、楽園を追放された…」
ヘッドは天井を見上げながら独り言のように呟く。
「あの子と一緒なら、俺は地獄でもどこでも、よかったんだ…彼女と一緒なら、世界で2人きりになったって、構わなかった…」
―なのに、神様はあの子だけを連れて行ってしまった…。
天国でも地獄でもない、だけど遠い遠い、宙の果てに…。
「貴方、サムに似てる…」
気多の巫女はポツリ、と零す。
ヘッドは気多の巫女に視線を向け、目を少しだけ細めて微笑むと、そうかい?と返す。
物語を語る時は感情豊かなのに、普段は大人しく控えめな所は何処となくあの子を思わせて結構気に入っている。
「じゃあ、サムの話もハッピーエンドにしてね。サカナちゃん」
―天国でも地獄でも、海の底でも宙の果てでも、何処でも良い。
あの子のいる場所に俺も連れて行って…。
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