ブルーブラッドの福音
空に祈っても、この願いは叶う事はない。
神様なんてものは、僕の願いを叶えてはくれない。
―だって、そう簡単に願いを叶えてしまったら、神様は暇を持て余して、退屈になってしまうから。
だから、この手で叶えるしかないんだ。
「―戦いが始まる」
「危険で暗い夜の海。サムは銛を手に今戦いを挑む」
「そして言葉では到底語り尽くせない激しい格闘の末にイカ大王を仕留めたサムは、ついにその青い血を手に入れた―」
「戦闘シーンの描写は無しか…」
カウチに横になりながら聞いていたヘッドは残念そうに言う。
「―瓶に詰めたイカ大王の血は青く煌々と輝き、夜の海を照らし出す」
透明のジュースの注がれた気多の巫女の持つグラスに青い液体が混じる。
「それは神秘的だねぇ…」
ヘッドは僅かに目を細め、薄く笑みを浮かべる。
青い光が照らし出す夜の海はきっと言葉にはできないほど綺麗なのだろう。
そんな光景をあの子に見せたら、きっと目を輝かせて、飽きもせずにずっと見つめているに違いない。
そして自分はそんな彼女の横顔を見て、微笑むのだ。
思い描くだけでじわり、と幸せな感情が湧き上がる。
そして同時に、苛立ちにも似た、無性に泣きたくなる様な衝動がこみあげる。
「…」
「その青い血を携えてサムは王様に謁見する」
「“王様!約束の青い血です!これがそうです!”」
「王様は歓喜に震え、瓶を受け取ると、いきなりその青い血を飲み干した」
気多の巫女がグラスのジュースを飲み干す。
零れたジュースは顎を伝い、ぽた、ぽた、とワンピースに青い染みを作る。
「―その青い血は不老不死の魔法にかけられた王様が永遠の人生を終わらせる事の出来る唯一の薬だったのだ」
「“ありがとう、サム。これで今宵、眠りに就けば私はもう2度と目覚め無い”」
「思いがけない展開だなぁ…」
「このジュース、美味しくないわ…」
ポツリ、とそう零した少女の飲み干したグラスの底には赤と青の飴が残っていた。
「それで、サムはどうしたの…?」
「人生という冒険は続く―」
「良い所なのに…」
ヘッドは残念そうに小さく溜息を付く。
ごろん、と仰向けになり、目を覆うように腕を乗せる。
ほとんど無意識に、はぁ、と小さく息を吐く。
それが何に対する溜息なのかすら、自分でもよくわからなかった。
「…」
気多の巫女は鳥籠の中に寝そべり、頬杖をついたまま、じっと静かにヘッドを眺める。
―知ってる?
もしも僕が死んだら、それはきっと君の為に死んだんだよ。
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