幸せな悪夢だ、と君は嗤う

僕は今までに2度君を失った。

1度目は、君への恋を終わらせようとした時。
2度目は、君が檻に囚われてしまった時。

3度目は…あぁ、そうだ。そうなる前に、一緒に死んでしまおうか。


「…」

風にはためくカーテンの隙間から日差しが優しく差し込む病室で、ピッ、ピッ、ピッ、と規則的な機械の音が時計の針の様に延々と音を刻む。

「…なまえ…」

昏々と眠り続けるその寝顔を、ヘッドはじっと見下ろし、ぽつり、と彼女の名前を零す。
窓から吹いた風のせいで顔にかかった前髪をそっ、と指先でどけてやる。
堅く閉じられた瞼は額や頬に指先が触れても、髪を撫でてみても、身じろぐ事すらせず、一向に目覚める気配はない。
それが更に不安を煽り、ヘッドは眉間に深く皺を刻み、苦しそうに目を細める。

「…彼女の容態は?目覚めるんだろうな?」

ヘッドはじとり、と半ば睨みつける様な眼差しで医療機器に繋がるコンピュータのキーを忙しく叩くシブヤ医師に問いかける。

「精神、肉体共に異常は見られません。しかし、目覚めるかどうかは、彼女次第としか…」

曖昧な答えにヘッドは不満そうに眉を顰めるが、何も言わず、なまえに向き直ると、ぎゅっ、と手を握る。


「…昨夜、彼が“王の柱”を使った事と、関連はあるのか」

「恐らくは。ザメクの力に共鳴した、という所でしょうか。
“始帰の司”に関する記述はかなり少ないですから、憶測でしかありませんが―」

「始帰の司は、ザメクのスタードライバーの誕生と共に産まれ、共に眠る、時の者」

何度も何度も読み返した、地下遺跡に関する記述の1節だった。
その役目も、サイバディも、シルシとその記述以外にわかっている事はほとんどないと言っていい。

「王のサイバディ、ザメク…シンドウ・スガタ…彼か…」

「彼が…」

ヘッドははためくカーテンの隙間からのぞく、窓の外に目を向ける。
この憎悪にも、歓喜にも似た思いを馳せる彼の少年は、この少女と同じ様に、昏々と眠り続けている事だろう。
ぎり、と奥歯を噛む。

―気に入らない。

いつだって、俺の腕の中から君を奪っていくのは、あの少年で…。


―それじゃあまるで、彼が君の“運命の人”みたいじゃないか。
君の運命の人は、俺なのにさ。

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