ほ ら ね
ふふっ。君はなんて幸せな子供なのだろう。
どうしてって、だって君は、どんなお伽話も、全部ハッピーエンドで終わると思っているんだろう?
それこそがまさにお伽話じゃないか。
なんとまぁ、実に愉快な悲劇だ。
「―王様は王位を譲ると言った。王様は最初から呪いを解く青い血をもって来た者に、その王位を譲るつもりだったのだ」
「けれどサムはその申し出を断った」
「“王様、僕はただ貴方が持ってるという銀河の船が欲しいだけなんです。だから王位なんて要りません。国など欲しくありません”」
「ホント面白い」
ヘッドは手の甲で転がしていた青い飴玉を握りしめる。
「こうしてサカナちゃんの話が聞けるなら、俺もまだ頑張れる…」
気多の巫女はヘッドを見る。
「すると王様は言った」
「“良かろう若者よ。望むものは何でも与える約束だ。違えるつもりはない。あの銀河の船を譲ろう。だが若者よ、イカ刺しサムよ―”」
転がる赤と青の飴玉がぶつかりコツ…コツ…と小さな音が鳴る。
「“心して聞くがいい。あの船を動かすには、お前が恋する少女の赤い血を1滴残らず、そのエンジンに注がねばならぬ”」
転がる赤い飴玉が青い飴玉の手前で止まる。
「“そう…恋する少女を殺さねばならぬ。そうしなければ、動かない”」
「…」
ヘッドは動きを止めた赤い飴玉を取ると、眉を顰める。
「“さぁ、持って行け。たった今からお前の物だ”」
気多の巫女の広げた両手には赤い飴玉があった。
ヘッドはため息をつくと、横になる。
「甘いな…この飴…」
じわり、と口内に広がる甘さが、今は無性に腹立たしい。
「人生という冒険は続く…」
それが合図の様に、ヘッドはゆっくりと目を閉じる。
閉じた瞼の裏に思い浮かぶのはやはり彼女の寝顔だった。
今もまだ眠り続けているのだろうか…。
いや…そもそも、このままずっと目を覚ます事がなかったら…。
「…王のサイバディと始帰の司は、深く繋がってる。
だからあの女(ヒト)も、眠りに落ちたの」
「―王様と同じ…」
「シンドウ・スガタが、なまえにとってのイカ大王の青い血、か」
「君は本当に面白い事ばかり思い付く。サカナちゃんのそういう想像力豊かなトコ、俺は結構好きだよ」
「でもね―」
優しげに微笑みかけていたヘッドの表情が、徐々に冷徹に、明らかな嫌悪の色を露わにする。
「彼女は王様じゃない」
―だってあの子は、その為の役者(キャスト)じゃない。
「…」
気多の巫女は少し哀しげに、寂しげに目を伏せる。
感情を押し殺すようにギュッと握り締められたワンピースには、くしゃり、と幾つもの皺が刻まれていた。
―あの時と同じ様に、俺の胸の高鳴りはもう君と一緒に遠い世界へと消えて行ってしまった。
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