嘘を愛しているのは君の方
そうやって世界を嫌ってる君こそ、世界を愛しているんだね。
―世界の愛し方を、僕にも教えてくれないか?
「―シンドウ君…?」
茜色が景色を染める中、ぶらぶらと宛てもなく歩き、辿り着いたのは先日の灯台の見える公園の高台だった。
階段を一段上がるごとに見えた先客の姿に、ナマエは思わず目を丸くする。
「…」
振り返ったスガタはナマエを一瞥しただけで表情を変える事もなく、視線を海へと戻す。
それだけの仕草にも、言葉にはしない拒絶の色が表れている様な気がして、ナマエは僅かに表情を歪める。
ふつふつ、と胸の奥から湧き上がる様なものは、スガタの態度に傷付いた、というよりは、苛立ちに近い。
「…シンドウ君一昨日、誕生日だったんだね。ワコに、聞いた」
ほんの僅かに揺れた肩をじっと見つめ、ナマエは1度ゆっくりと目を閉じてから、目を開け、スガタの背中を見る。
「…あれね、嘘だよ」
「…―」
脈絡のないナマエの言葉に、スガタは肩越しにナマエを振り返る。
鋭さを纏うその瞳には拒絶と、疑問の色が見て取れた。
ナマエは睨みつける様なその鋭い瞳から目を逸らさず、真っ直ぐに見返すと、口を開く。
「この前来た時に言った、目を閉じて、次に世界を見たら少し綺麗に見えるっていうの。あれね、嘘」
海の近くのせいか、少し肌寒い潮風が2人の髪や制服を揺らす。
2人きりの公園に、ナマエの声がやたら冷たく響く。
「…」
「目を開けても閉じても、世界は一緒に決まってる」
どんなに強く信じてるおまじないも、真実にはならない。
ほんの少し、世界から真実を隠してくれるだけ。
「そんな簡単に、世界は変えられないよ…―」
「…そんな簡単に、世界は変わらない」
ナマエは一瞬、苦しそうに顔を歪めてから、それから苦笑とも嘲笑とも取れる、少し泣きそうな顔で薄く笑みを浮かべる。
「…」
スガタは眉を顰め、怒りとも落胆とも違う色を滲ませ、表情を歪める。
「シンドウ君は、世界が嫌いみたいな事言ったり、そういう態度したりするけど、私には、世界を好きになりたいって言ってるみたいに思えるよ」
自分の意見を曲げない意志が瞳にも表れているのか、2人の視線が鋭く絡みあう。
「今の君は、1人で勝手に孤独ぶって、誰かに構って欲しがってる子供みたいだ…」
「―…お前に、僕の何がわかる」
低く、冷たい、心の底から拒絶するような声に、少しだけ、心臓が震える。
こんな、冷たい声も出すのか、と場違いな事を思う。
―いや、これが本当の彼なのかもしれない。
いつものように何を考えているかわからない凪いだ瞳ではなく、感情を鋭いまでに剥き出しにした、この瞳が、この人の本当の姿なのかもしれない。
「知らないよ。君の事なんて」
我ながら冷たい声だと思う。
どうやら自分で思ってる以上に、この少年に苛立っているらしい。
「…何で自分の誕生日が嫌いなのかも、そんなに回りを拒絶するのかも、何も知らない」
スガタを見るナマエの瞳に鋭さが増す。
潮風に当たっていたせいなのか、両手の指先が酷く冷たい。
「でも君が、側にいてくれる人がいるくせに1人ぼっちぶって、皆拒絶してるのみてたら―」
―1人じゃないくせに。
「凄く、むかついた」
―側にいてくれる人がいるくせに。
ぴくり、とスガタの眉が微かに揺れ、表情が険しくなる。
「僕が、孤独ぶってる…?僕が…僕達がどんな思いで生きているのか―」
「そうやって、すぐにワコが出てくるくせに、何で、ワコまで拒絶するの…っ?」
「―…」
蜂蜜色の瞳が僅かに揺れる。
それと同時に、スガタの眉間に刻まれる皺も更に深く刻まれる。
「言ったでしょっ…今の君は、構って欲しくて1人ぼっちぶってる子供みたいだって…っ」
世界は君を悲しませる事だけじゃない。
なのに、君はそれを見ないふりしてる。
見えないふりをしてる。
吐き捨てる様にそう言うと、だっ、と逃げる様に背を向け、来た道を引き返す。
何だか、泣きそうだと思った。
―もし君が泣いたら、その涙を拭うのは私じゃないけど、それでも、君が1人じゃないのだとわかって、泣くのを止めてくれるなら、それはきっと、良い事なんだよね。
例えば流れ星にかけた願い事は叶わないとか、サンタクロースはいないとか、神様はいないとか、そういう事。
僕が嘘つきだなんて、とっくに知ってるよ。
だって、この嘘は僕が僕の為についた嘘なんだから。
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